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....何なのよ

何で私がこんな事

ミラーに映る後部座席の二人は、嫌そうに眉を顰めるのが一人とそれを解そうとしているのが一人
それからあと犬が1匹

名前さんが私を嫌っているのは見て分かるし、宜野座さんとは少し前に揉めたばかり
....揉めたと言うより、私は当然の事を言っただけなのに





それを全て分かっているはずの先輩から、昨日出勤して直ぐ"話がある"と呼び出された


『何ですか?話って』

『はい、これあげる』


そう渡されたのは自動販売機から出て来たばかりのオレンジジュース


『私、今日の午後は休みをもらってるから仕事の方はお願いね』

『....分かってますよ』


忌引き
私があいつに渡した情報で....


『それと、明日は頼みたい事があるの。ちゃんと非番にするようお願いしておいたから』

『明日...ですか?』

『うん。宜野座さんと名前さんの外出に同伴してあげて。申請は霜月さんの名前で処理してある』

『....は!?何で私が!』

『監視官として約束を破るわけにはいかないでしょ。二人ともすごく楽しみにしてるはずだから、出来る限り希望に寄り添ってあげてね』

『ちょっと待って下さい!私は嫌われてるんですよ!?ここはどう考えても先輩が

『だからよ、あなたにとってもいいチャンスだと思うの。これからも一緒に戦っていく仲間内で歪み合うのは良くないでしょ?きっと霜月さんも、あの二人に対する考えが変わると思う。それから、名前さんにはちゃんと説明してあげて下さい。東金昨夜元執行官が購入したバースデーカードの事』





私だって知らなかった

"友人に送りたい"と言って申請された購入許可
危険な物でも高価な物でもなく、却下する理由が無かった

それがあんな風に悪用されるなんて


「間も無く到着します」


私が宜野座さんに好意を寄せる?
そんな事あるはずない
一回りも年上の男で、もはやおじさんでしょ

元監視官だからって生意気な態度は気に入らない
今は執行官に落ちた身で、私が上司である監視官

....そりゃ確かに、顔は整ってるかもしれな....って何考えてるの











「早くして下さい」


何がどうして私が他人のウェディングフォト撮影現場に付き合わなきゃいけないのか
こっちは彼氏すらいないのに


「1時間経ったら切り上

「すまないが、妻と二人で行かせてくれないか?」


その要求に思い出すのは昨日の先輩の言葉

"写真撮影は二人きりにしてあげて。宜野座さん、人前は得意じゃないから"

....でも相手は執行官
何かあったら責任を取るのは監視官である私
逃亡なんてされたらたまったもんじゃない


「あなたも元監視官なら、無理な要求はしないで下さい」

「だからこそ余計な事はしないと約束する。俺達にはGPSも付いている、それで監視すればいいだろ」

「GPSだけで執行官が単独行動出来るなら、外出許可申請など存在しません」

「....ならせめてスタジオの外に居てくれ」

































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「....気持ちは分かるがもう少し笑え」

「笑ってるよ」


笑えない
どうして霜月さんなのか
何とかしてスタジオの外には追い出したものの、これから先に負の感情しかない

買い物するとしても着いてくるんでしょ?
焼肉に行く時も
仮に行けたとしてスケートも
プラネタリウムも

あの霜月さんと一緒

....絶対嫌だ
もう"嫌だ"としか言えない

白と緑を基調とした装花に囲まれて、用意されたソファに隣同士で腰掛ける
足元には伸兄と同じくタキシードを着こなしたダイムが居て、私も真っ白なドレスに身を包んでいる

靴は私が施設にいた時に買ってくれていたと言うピンヒール
繊細な模様が施されてて本当に綺麗


「奥様、何かお飲みになられますか?」


そう駆け寄ってきたプランナーの女性
....私そんなに不機嫌モード漏れてる?


「いえ、大丈夫です....」


撮影は基本的に放置型
定点カメラみたいに360度映る撮影機がいくつかセットされてて、私達は決められた時間の中で自由に過ごすだけ
レンズの前でポーズを取るも良し
ダラダラと過ごすも良し
後で動画として保存するか、写真として残すかは決められる

スタッフは確かに居るけど、人に見られたくない性格の伸兄がお願いして退いてもらった

とは言え私達からは見え辛い場所にいるだけだから、こうして逐一ヘアメイクなり、ドレスなりを直しに来るんだけど


「はぁ....すぐ戻る」

「え?どこ行くの?」

「忘れ物だ」


忘れ物?

立ち上がった背中は相変わらずスラッとしてて
高身長はやっぱりスーツスタイルを映させるな...と思いながらスタジオを出て行くのを見送った


霜月さんが言ってた1時間まであと20分しかない

憂鬱

こんな日にこんな気分になりたく無かったのに

なんで


もうこれが終わったら帰ろうかな....





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