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「何してるんですか!一般人にドミネーターを向けるなんて!処罰を受けるのは私なんですよ!」

「だからこそ隠せばいい」

「は!?それでも元監視官ですか!?」


あの後ものすごい速さで霜月さんが来て、私達は見て分かる通り叱られ中

要は私を"おばさん"呼ばわりした事に対しての謝罪を求めたらしいけど、さすがに"警察"は強い
何も悪さをしてないのに、ただ相手が警察だったというだけで人々にはかなりの威圧になる
もちろん、"すみませんでした"と一言だけ残して、霜月さんよりもさらに早足で去って行った


「監視官には監視官権限がある。履歴を消せば済む話だ。一般人に危害は加えていない、サイコパスも濁らせていない。何も問題は無いだろ」

「....本気で言ってるんですか!?」


実際私は本当に何もしてないから、ただひたすらに黙って二人に任せている
これに関してはどう考えても伸兄の責任で、私だってその場では焦ったし"どうするつもりなのか"と聞いた

あまりにもイレギュラーな行動過ぎて戸惑いを隠せない私に反して、何故か涼しそうな表情
今も全く反省する気は無いみたいだし、そこまであの行動は妥当だったと考えているのか


「あぁ、本気だ。少なくとも俺が監視官ならそうする」


いや、しないでしょ
監視官だった頃に執行官の誰かが同じようなことしたら、今の霜月さん以上に怒鳴り散らかしてたでしょ


「....これ以上の外出は危険だと判断し、今すぐ局に帰ります!」

「えっ....」


そんな、まだお昼
まだお昼なのに....
言いたい事は分かるけど


「単独行動を許可した私の非ですが、後日お二人にはしっかり報告書も書いてもらいます!」

「.....」


伸兄にしては後先考えてなさ過ぎな行動
今も謝りもしないし、頑なにさほど大きな問題じゃないとしてる

....そんなに怒ってくれてるの?
私がおばさん呼ばわりされて?
確かにムカついたけどあんまり気にしてないのに

実際もう来年には30歳になるわけだし、受け入れなきゃいけない現実ではある


「....謝ったら?」


そう諭してみるも、


「俺はそこまで優しくない」


って....
私あの時すごい顔に出てたのかな?
おばさんって言われたショックが

しかも優しくないって、どの口が言うか
今日私が欲しかったけど得られなかったのはあのバッグだけ
写真撮影でのポーズとか、ショッピングモールで見たい物買いたい物、全部付き合ってくれたくせに
その優しさは今に始まった事じゃないし、昔から....









そんなこんなで、



「報告書!忘れないで下さい!二人それぞれで一枚ずつです!」


本当に帰って来てしまった公安局


「先輩にもこの事は報告させて頂きます!」


焼肉は?
スケートは?
プラネタリウムは?

本当に終わり?


「名前、帰るぞ」


あんな事のせいで?
あんなクソ女達のせいで?
私達のせっかくの外出が終わり?


「....先帰ってて、ちょっとオフィス寄って来るから」


かと言って伸兄を責めることも出来ない
ああでもしないと、余計暴言を吐かれそうだったのは確かにあり得た
"調子乗んなババァ"とか言って来そうな雰囲気あったし
そこから私もリミッターが外れて喧嘩になって、一般市民と取っ組み合いになったり....


「....あまり遅くなるな、いいな?」

「うん、分かってる」


....したかもしれない可能性の高さを考えると、ドミネーターを引き出して脅したのは正解だったと思う

自身の怒りや苛立ちが多少含まれていたとしても、私はあのクソ女達を止めるのには最も効率が良い手段だったとしか言いようがない
あれで実際逃げてったわけだし、私も監視官の付いていない執行官が街中でドミネーターを引き出してしまった事の方に注意を引きつけられていた

全く....あの行動は理性的だったのか感情的だったのか

どちらにせよ乱暴ではあるけど、執行官が一般市民に手を挙げる最悪なシナリオは免れたわけで
そしたら私は大変な処罰を受ける事になっていたかも....




今思い出しても、イライラする
あんな堂々とナンパする?
それも既婚だって言ってるのに?
うちの旦那は実はそんなにモテるって事?

端正な容姿なのは昔からだけど、あの性格だったし近くには狡噛さんがいたからかな
人事課の時の同僚とか、一定数伸兄を好き好んでいた人はいるけど、モテると言える程では無かった印象
特に"潜在犯の息子"だとどこかで知り得た人や、一度会話でもした人は離れて行くことが多かったと思う

....やっぱり顔?見た目?
それとも執行官になってから柔らかくなった雰囲気?
確証はまだ無いけど霜月さんもそうだし、これからこういう事がいっぱい起こる?

その度に私はこんな気持ちにならなきゃいけないの?

自分の彼氏や夫がモテるのは、優越感に浸れるとか聞いたことあるけど全然そんな事ない

むしろ


「ムカつく!妻がいるって知ってても、その私の前ででも気にせず言い寄るなんて!そんなに私は魅力的じゃないって事!?"あんな妻"敵じゃないって言いたいの!?」

「あはははは!名前ちゃんもちゃんと女の子なのね」

「....す、すみません....少し取り乱しました」

「いいのよ。まぁ結論から言うと、名前ちゃんは宜野座君とずっと一緒に育って来たわけだし、他には慎也君くらいでしょ?感覚ちょっと鈍ってるんだと思うわ」

「....どういう事ですか?」

「ご主人と、それから慎也君。名前ちゃんはどう思う?」

「どうって....素敵な男性だと....二人とも顔も整ってるし、狡噛さんはすごく優し...かったです。伸兄はとにかく何でも分かってくれると言うか....」

「名前ちゃんからしたらその程度でしょ?あの二人より上も下も存在しても、比べたりしない。自分にとって満足以上なレベル。この世に存在する男達の中で、二人がどの位置にいるかなんて考えた事無いんじゃない?」

「....と言いますと?」

「間違い無く超希少な優良度よ。宜野座君は執行官になってから一気に開花した感じはあるけど、二人ともどんな女の子から見てもこの上無いでしょうね。それに一般的に男はしょうもなかったりする事が多いのよ。ちょっと可愛い子に言い寄られたらすぐバカになっちゃったり?だったらそれを利用してでも、自分の物にしたいくらいな良い男。それがご主人ね」

「.....」

「だから名前ちゃんが魅力的じゃないのが原因ではないわね。なんなら名前ちゃんはいつでも可愛くて、私達のマドンナ的存在よ?」

「か、唐之杜さん....」

「つまりは、ご主人が魅力的過ぎるのよ。それはどうしようもできない事だし、そんな宜野座君がただ一人愛する妻として胸を張ればいいと思うわ」

「.....あ、すみません。常守さんからです。ちょっと出て来ますね」





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