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「失礼いたします。間も無くラストオーダーのお時間となりますがいかがでしょうか?」

「いちごパフェを一つ」

「まだ食べるのか?」

「ダメなの?」


いかにも"仕方ない"とでも言いたそうに眉を下げてから、店員さんに注文を入れた伸兄
黒いハイネックセーターにそろそろ襟足が届きそう


「そういえば、クリスマスはパーティーをするんですか?」

「あぁ、家族で過ごそうと思ってたんだが....」

「唐之杜さん達がお邪魔するんですよね、聞きましたよ」


そう
結局私が、少しくらいいいんじゃないかって誘った
確かにダイムと伸兄とで、自由気ままに過ごしたかったけど、それならいつでも出来る
クリスマスイブとか、皆が帰った後でも

でも今日の事があったからか、ちょっと気分が乗らない
大勢いた方が楽しいとか思ってた自分がどこかへ行った

それにこの流れだと


「今年も帰省出来そうにないのか?」

「事件なんていつ起こるか分かりませんからね。友達も皆彼氏とか、家族と予定があるらしくて」

「そういう物なのか....」


迷ってるんでしょ?
常守さんに"どうせなら来るか?"って言いたいけど、同じくこの場にいる霜月さんをわざと外すわけには行かない
それじゃ体裁が悪過ぎる
でも私が嫌がるのも明白だし、そもそも誰も誘いたくはなかった
かと言ってこのまま二人とも誘わないのも薄情

そんな分かりやすい視線を向けて来た伸兄は


「....私を見てどうするの」

「お前の好きにしろ」


そんな事言われても....


「私なら大丈夫ですよ、ちょうど引っ越そうと思っていましたから」

「え、まだ引っ越してなかったんですか?」

「鹿矛囲の事で忙しかったですからね、なかなか時間が取れなかったんです」

「そうですか....」


どうする?
誘う?
そしたら霜月さんも?

焼肉に来てから全く喋ってない霜月さんも来るの?

....でもさすがに皆が居る前で何かしようとはしないよね...
でももし"奪おう"として来たら?
私はまた自信を失くす


「....いいですよ、良かったら来ませんか?クリスマスパーティー」


テーブルの下で、その手袋に包まれた義手を探してグッと掴む

大丈夫
早く帰って貰えばいい
そこからはちゃんとダイムも一緒に映画でも見たり、ゲームしたり

家族の時間を


「え...」
































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突然握られた左手に力を込められたかと思うと、名前の前に差し出されたのはメモ帳程のカード

それを見て明らかに表情を変えた名前には見覚えがあるようだが、俺には全く状況が分からない


「....どうした?」


常守も特に何も言わない様子から、知らないのは俺だけなのか?


「名前?」


バースデーカード....か?
何故そんな物を今霜月が


「....どういう意味ですか」

「あなたのデスクに入っていた物です。....これに関して話があります」

「今更謝罪ですか?それなら要りません」


俺は構わないが、掴んでいる本人が痛むんじゃないかと思う程の強さが義手から伝わって来る

何だ?
あのカードがどう


「なっ!」

「なんで"何も知らない"みたいな顔してるの!?まだ誤魔化す気!?」

「は?何の話だ!」

「これだよ!バースデーカード!霜月さんから貰ったでしょ!」


霜月
バースデーカード

....まさか、これがあの時散々揉めた....


「30歳の誕生日だった日に、これと一緒に食事に誘われたでしょ!」

「そんなカードは見た事もない!それより一回落ち着け!」

「嘘つき!」


二人の監視官の手前、掴みかかって来る勢いの2本の腕を何とかして抑える
手に込める力加減に気を付けながら、テーブルに置かれたバースデーカードを横目で確認してみるが....

....どう見ても、俺には今初めて見る物だ
女性らしいデザインの厚紙で、実際に手に取って見たいが空いている手が無い


「失礼します、いちごパフェを....」

「すみません、私が受け取ります」


そうすかさず店員からデザートを受け取った常守は、やはりよく気が利く


「....私が本当にあのバースデーカードを持ってるのか疑ってたんでしょ!ほら!」

「お前がそれを持っていようが、俺はそんな物知らない!....霜月!どういう事だ!」

「...それは....」

「霜月さんを味方に付けるの!?私の話を信じないで!?」

「お前を信じて嘘を言えと言うのか!」

「そうとは言ってな

「お二人とも!」




「名前さんはパフェを食べながらでいいので、霜月さんの話を少し聞いてあげて下さい」


....まるで兄弟喧嘩を母親に止められたかのような空気に、変に居心地が悪い





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