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「お二人ともすごくお似合いですね!私もいつかあんな写真が撮れたらいいんですけど」

「....なっ、見たのか!?」

「もう、冗談ですよ。そんなに見せたくないんですか?」

「はぁ....脅かさないでくれ」


あれからまだ5日くらいかな
予想よりも早く出来上がった見たいで、今朝出勤と同時に常守さんからウェディングフォトやホログラムのビデオ等を受け取った

共に後部座席に座る伸兄は午後の勤務だったからスーツ姿のままで、私と常守さんは私服
そして今向かっているのはきっと今年最後の外出先は墓地
....やっとお父さんとの約束が果たせる


「そう言えば引っ越しはどうですか?」

「実は...私片付けが得意じゃなくて、荷物をまとめるのに苦労してるところなんです。寝るところだけは確保出来てますが...」

「なんか意外ですね....むしろ物少ないイメージでした」

「真逆だな」

「え?」


何で知ってるの?
行った事あるんだっけ?
あれ...?


「....勘違いするな、仕事だ。鹿矛囲の事件であっただろ」

「....あ、そっか。忘れてた」


確か家の壁に"What Color?"って書いてあったんだっけ?
施設にいた頃がもう遠い昔みたい

窓の外はすっかり夜で、クリスマスシーズンを彩るイルミネーションがガラスの上の雨粒に反射してる
公安局を出た時はまだ降ってなかったのに、もうすぐで到着しそうな今になって

傘とか持って来てないけど、駐車場からビルまで遠くはないからとただ降られる予定


「サンタの格好とかするんですか?」

「すると思うか?」

「似合いそうですけどね」


クリスマスパーティーは、結局皆来る事になった
唐之杜さんと六合塚さんが最初に確定して更に監視官二人を誘ったから、一係女性陣は全員参加
ここまで来たら須郷さんと雛河さんも誘おうと話してみたら、案の定門前払い

"これ以上人を増やすな、そんなにたくさん来客用の食器も無い"
って言ってはいたけど

どうかな






「私の事は気にせずにゆっくりして来てください。家族水入らずの時間ですから」

「すまないな、30分以内には戻るようにする」


車のドアを開けて、雨水が跳ねないようにそっとコンクリートに足をつけてから小走りで屋根のある入り口を目指す
濡れてしまわないようにコートの内側に隠した小さめのアルバム

喜んでくれるかな


「お母さんにもあげる?」

「要らないだろ、どうせ親父が見せる」

































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「おい、冴慧!」

「どうしたのよ、そんな慌てて」


天国とは思っていたより良いところだと思う
子供達に何もしてやれずに残して来てしまったが、またこうして愛する妻と出会い、穏やかな日々を送ることが出来ている

これが例え現実じゃないとしても、俺はそれで幸せさ


「あら....!」


そんな夢現な今朝
それはどこからともなく現れた


「綺麗になったわね....」


伸元と名前の晴れ姿を写した小さなアルバム
そう言えば名前が"出来上がったら見せる"と言っていたな....

写真の中の我が子二人は、自然と涙が出る程に幸せそうだ
自分と冴慧が同じ顔をしていた時よりも心が煌めくような感情
子供を持つ親とはそういうものなんだな...


「お花はきっと伸元のセンスね、あの子は昔から草花が好きだったもの」

「あぁ、そうだろうな。それにしても名前は本当に大人の女性になったなぁ....」

「私は最初から、名前ちゃんは美人さんになるって分かってたわ。あの子にはもったいないくらいよ」

「おいおい、伸元が拗ねるぞ」


それでも確かに名前は、伸元にはこれ以上無い程の伴侶だ
こんなにも柔らかく笑う伸元は俺が潜在犯になる前以来だな
それがまた冴慧にそっくりだ

顔を寄せ合って笑い合う姿
冴慧は興奮しているが、俺は気恥ずかしくて見れない二人が口付けを交わす瞬間
伸元そっちのけでダイムと戯れる名前
白無垢を纏った花嫁はあまりにも美しい
それにいくらか心奪われ上の空になってしまっている息子は父親にはお見通しだ

その全て一枚一枚が宝石のように輝いて見える



「私、本当は心配してたのよ。あなたが突然女の子を連れて帰るって言った時」

「伸元か?」

「あの子はずっと一人っ子だったでしょ?私達の愛を全部注がれてたのに、急にその半分を誰かも知らない妹に奪われる事になったら....あの子が悲しむんじゃないかって」

「あの時は急いでたんだ。すまんな...せめてお前には相談するべきだったな」

「いいのよ、名前ちゃんは本当に危ない状態だったもの。それに、あなたも覚えてるでしょ?私達は伸元に負けたじゃない」

「ははっ、こと名前に関しては伸元の右に出る輩はいないだろうな」

「私、びっくりしたのを今でも覚えてるわ。二人が上手くいかないんじゃないかと思ってたら、私達には"おやすみ"すら言えなかった名前ちゃんが、伸元には"一緒に遊んで"って。どうやって仲良くなったのかしらね」

「心を開いてくれるまで、俺たちよりもあいつの方が名前の保護者だったからなぁ。納豆を買って来て欲しいと言われた時は聞き間違いかと思ったさ」

「確か名前ちゃんが食べてみたいって言ったからよね?」

「結局伸元と同じように嫌っていたがな」


思えば俺達が知っている名前の好物や嫌いな物などは、全て伸元から聞いた情報だ
俺と冴慧が何週間もかけてようやく聞けた名前の肉声の前に、伸元は既に色んな事を知っていた

週末に遊園地に行きたいと言われ連れて行ったら
夕食にハンバーグが食べたいと言われ冴慧が用意したら
名前が来てから突然欲しがりになった息子は、ただひたすらに妹を思っていた


「名前ちゃんが他の男に取られないように、伸元には頑張ってもらわなきゃね」

「綺麗な妻を持つ男に共通する戒めだな」

「あなたは頑張らなくてもいつでも私の一番よ」

「冴慧....嬉しい事言ってくれるじゃないか」


このアルバムをつまみにいくらでも酒が飲めそうだ


「ただ二人が幸せでありますように」





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