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「どうしても言いたくないならいいんだけど....私達は名前の味方だから。いつでも話してくれていいよ」

「...うん、ありがとう」


我ながら良い友を持ったと思う
入局した当初は、闘争心剥き出しで怖いと思ってたのが申し訳ないくらいだ

味のしないうどんを食べるのは気が引けたし食欲も無かったが、食べないと午後持たないと仕方なく口に運ぶ

そんな私に、じっと皆んなの視線が刺さる


「....そんなに見られてたら食べづらいよ...」

「ご、ごめん...やっぱり泣いてると気になっちゃって...」


自分では泣いているつもりも実感も無い
ただ、目から液体が流れているらしい
そんな感覚だった

























昼休憩も残り10分程

それぞれにトレーを片付けて、食堂から出ようとしている最中だった


「....名前、私から課長に話しておくから午後は休んだら?」

「え、いやいいよ!私なら大

「大丈夫じゃない!自然と、かつ自覚無しに涙が出るなんて普通じゃないよ。それに、あんまりストレス溜め込んでると色相濁るよ」


...正直、確かに濁ってきている
犯罪係数で言えば65前後
まだ余裕はあるものの、決して良い数値ではない

でも、目的は何にせよ狡噛さんも頑張ってる時に私が何も出来ない上に、さらに休むだなんて
そんなの、無責任にも程がある


「皆んな、私の事そんなに気にしてくれてありがとう。でも私は私のやるべき事がしたいの」

「...そうは言ってもねぇ...って、あっ!」

「わ、やばいやばい!私髪型変じゃない!?」

「ちょっと今鏡持ってないよ!」






デジャブな騒ぎに、思わず顔を伏せる

まさか...そんなわけ





「っ!」





背後から肩に手を置かれた感覚に焦る
入局初日以来、共有エリアでは関わらないと決めたはずなのに

帰ったらサボテン一個盗んで....







「名前、」







予想していた声とは違くて、また泣きそうになる






「えっ....」





「すまない、少し良いか」




「こ、狡噛さん....?どうして....」




「ギノじゃなくて悪かったな」



どういう意味ですかと聞き返しそうになったのを飲み込む

確かに私は伸兄が来たんだと思った
狡噛さんが約束を破るはずが無い、と

もう変わってしまったんじゃないかと恐れていた狡噛さんは、そんな私を良い意味で裏切った

そこにはいつも通り、優しい狡噛さんがいた



それを見た瞬間、自分が泣いている事をしっかり感じた




「泣くな...俺が悪かった...」




そう私の頬を拭う手が暖かい




「俺が、笑顔でいろって言ったのにな.... 本当にすまない...」

「....そう思うなら、今すぐセラピー受けてください!一係の皆さん、狡噛さんの事心配してるんですよ!伸兄だって、狡噛さん居なくなるのを望んでいません!」

「....すまない」

「....どうして....どうしてですか!自分の仲間よりもそのたった1人の犯罪者が大事ですか!?....狡噛さん、お願いです!まずは色相のケアをしてから....」


投げやりに狡噛さんの肩を叩こうとした右腕を掴まれる












「本当に、申し訳ないと思っているんだ。許してくれとは言わない、だが...」

「えっ...んん!」











何が起きたか分からなかった

いきなり視界が変わったのだから

それは永遠にも感じられた一瞬だった

酷く甘くて、残酷な一瞬だった









「俺を、俺の事を嫌いになってくれ」



私は理解が出来ず呆然とした




「好きでもない男に初めて唇を奪われたら....さすがに嫌いになるだろ」





悪魔の様な言葉に反して、狡噛さんの表情は依然として優しさに溢れていた





「....何を言って



「ギノには俺から謝っておく、だから心配するな」




「ちょっと待ってください!どういうこ



「じゃあな、名前。お前に出会えてよかった」



「待って、待ってください!狡噛さん!どこに行くんですか!?私を置いて.....行かないで....」





食堂から出て行く後ろ姿に何故か動けずその場に座り込んだ



....そうだ、ここは食堂だった

同僚の子たちだってここにいる


それに気付いても体に力が入らず、涙が溢れ続けた

ただただ泣いて、泣いて、泣いた


そうしても何も解決しないと分かっていたのに




























私は自分を理由も無く責め続けた

何もかも、終わってしまった
そんな気がした













私が思い続けた人は、潜在犯となってしまった





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