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狡噛が、今まで共に戦ってきた相棒が、
潜在犯になった

短期間で監視官と執行官を1人ずつ失った一係は、かなりのダメージを喰らった



「宜野座監視官、君はこの件についてどう思っている」

「....監視官が執行官のみならず、自分のメンタルケアの管理まで怠った。監視官にあるまじき失態です」

「君は同僚としてその場にいたはずだろう」

「....申し訳ありません」


局長の前、深く俯く
握り締めた拳に力が入る


「君はこのような事が無いことを祈ろう。期待しているよ、宜野座監視官」

「....はい」









俺は薄情だろうか
悔しくて堪らないのに、色相は依然として澄んでいる

「....クソっ」

2人もいなくなってしまった一係オフィスは異様な静けさだった
その元凶である藤間幸三郎は一係ではなく、二係が捕らえた
それですら一係の覇気を失わせた


しかし影響を及ぼしたのは刑事課だけではなかった


名前だ


狡噛が施設に送還される直前、あいつと最後に交わした会話



『ギノ....すまない』

『今更どの口が言う!俺は最初からお前に忠告していた!それを聞かなかったのはお前の身勝手だろ!』

『....そうじゃない、名前の事だ』

『....まさかお前、名前を濁らせたのか!?』

『....かもしれない』

『かもしれないって、ふざけるな!あいつに何をした!』

『名前を責めないでやってくれ、あいつは何も悪くない。全部俺が勝手にした事だ。』

『....何を....』

『ギノ、名前を傷付けるなよ』

『そんな事お前に言われなくったって....』

『そろそろ行く、たまには会いに来てくれよ』


















人事課に名前が早退したと聞き、俺も急いで帰宅した

あいつまで濁ってしまったら、と名前を失うかもしれない事を考えるとても生きた心地がしなかった






そんな俺の焦りとは裏腹に、


『え、伸兄もう帰ってきたの!?』


玄関を開けた俺を迎えたのは、いつもの明るい声だった

すぐさま色相をチェックすると、やはり危険域に達する手前まで濁っていた


『名前、行くぞ』

『え、ちょっとどこに!?』

『セラピーを受けろ!狡噛の後を追うつもりか!』

『私なら大丈夫だって!ほら!』


と笑顔を見せる名前の考えは甘過ぎた


『....何年お前を見てきたと思ってるんだ、嘘だと顔に書いてある』


そうカウンセラーに強制的に連れて行くと、案の定仕事はしばらく休めとドクターストップが宣告された

それに不服そうな名前はそれ以来黙り込んでしまった












最低限の会話や生活はしているものの、明かに気力を失ったようだった

色相もなかなか良くならない

その原因が狡噛にあると思うと、自分の中で負の感情が生まれた気がした

狡噛と何があったのかと聞いても、「嫌いになんてなれない」と辻褄の合わない答えが返ってくるだけだった




今の名前の頭の中は、狡噛の事だけだ

俺の事などまるで見えていない

口を開けば「狡噛さん...」と呟くばかり

「あいつはもう居ないんだぞ」と言えば泣かれる始末




































そんな名前に俺も限界だった




































「伸兄....寝てる?」


それは、そんな生活が2週間ほど過ぎたある深い夜
急に音も無く、俺の部屋に入って来た名前に俺は驚いた
この頃能動的な行動などしなかった名前だからだ



「....どうした」



明かりを付けようとベッドから立ち上がろうとした俺とは逆に、隣に座った名前に俺も動きを止めた



「....聞いてくれる?」

「当たり前だ」

「あの日、食堂に狡噛さんが来たの。」



やっと気にしていた事を話してくれるというのに、“また狡噛の話か”と少し嫌気が差す自分がいた




「最初は伸兄が来たのかと思った。共有エリアで関わらないって約束、狡噛さんが破るはずないって」

「...俺は破ると言いたいのか」

「帰ったらサボテン一個捨ててやろうと思ってた」

「....お前な」



俺はそんなに名前に信用されていないのかと、また狡噛への劣等感に襲われる



「それで狡噛さんがね、.....これで俺を嫌いになれって、」



その言葉に俺は身構えた
先を聞いてはいけないような気もしたが、知りたい気持ちが勝り止めることは出来なかった

暗闇の中、名前が涙を流しているのが見えた

込み上げて来そうな感情を必死に押さえながら、続きの言葉を待ったが、





「キス、されたの」








自分の中で何かが崩れる音がした
























「私、どうしたらいいのか分かんなっ....んッ!?」




もう戻れない




「伸に..んんっ」




俺を兄と呼ぶ声がより一層背徳感を煽る




「....んはぁ...はっ...ちょっと...待って...」



肩で息をする姿が形容し難い程弱々しく、壊してしまいたい衝動に駆られる



「....待てない」





そう胸元のボタンに手を掛けるのを止める様子が無い事に疑問を抱く

むしろ俺の舌に応えてくれている

それが欲に拍車をかけた





「....抵抗するなら今だぞ」




ギリギリの精神でセーブをかける

これ以上いったら、本当に....








「.....忘れたいの」















もう理性など存在しない





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