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「どうだ?」

「そんなに早くないわよ。逆なら簡単だけど、子供の顔から親の顔なんて作った事無いんだから」

「正確じゃなくても構わない、多少母親似にして欲しい」

「はいはい、もう何回も聞いたわ。それより中には誰が入るわけ?ただホロを投影するわけじゃないでしょ?」

「....そうだな、俺は入れない」

「確かに結婚の挨拶で花婿と義父が同一人物は成り立たないわね。でも男って言ったら....」

「....で、出来ない、です....」

「....となると須郷か」


頼みづらいな...
最近は比較的日常会話は出来ているが、様々な感情が抜け切ったわけじゃない

共に一係のピンチを救ったからか
むしろ名前の方はかなり親しくなっている気がする
昨日急に話しかけられたと思ったら


『その....奥様の好きな物をお聞きしたいんですが....』

『好きな物?何故だ』

『先日、"クリスマスプレゼントを期待している"と言われました。自分は名前さんには大変お世話になりましたので、そのお礼も兼ねてと思っています』


と俺の全く知らない話をされた

いつの間にそう物を強請れる関係になったんだ
とりあえず適当に"スカーフ"と言っておいたが、大して親身になってやれなかっただけ俺は情け無いものだ


「母親役は私がやってもいいわよ」

「あぁ、頼む」

「それじゃ、とびっきりの美人に作っちゃ

「唐之杜」

「言ってみただけよ」
































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「おー!すごい!思ったより大きいね!」

「もう飾り付けするか?」

「それも一緒に届いたの?」


クリスマスパーティー2日前
帰宅すると目に入ったのは天井に届きそうなモミの木
その前には"公安局"と印刷された段ボールが3つ


「あぁ、一つはお前の名前だ」

「え?」


私何か買ったっけ?
そう不審に思いながら床に膝をついてテープに手にかけようとした瞬間


「....あ」

「なっ、どこ行くんだ?」

「これはまだダメ!当日のお楽しみ」


そうだ
サンタのコスチュームを買ったんだった
今バレたら絶対当日着れなくなる
伸兄絶対ダメって言いそうだもん

ミニスカサンタ

購入申請をした常守さんには"良いですね!"と言われて、同じ物を自分にも買ったらしい
だから当日はお揃い

ダイムにはトナカイ
伸兄にはスタンダードな赤いサンタクロース
クローゼットの扉を開けて、隠すようにして奥に手にしていた段ボールを入れる

意外と楽しみかも
自分で誘っておきながら本心はそこまで乗り気じゃなかった
霜月さんとの事が解決したからかな
今はかなり前向きに期待出来てる


再び戻ったリビングには脚立が追加されてて
スーツを着替えるのを忘れちゃったけど、伸兄もワイシャツとスラックス姿だし
近くのソファにジャケットとネクタイが放られてるところを見ると届いた荷物に忙しかったのかな


「私が脚立登る」

「分かった、足元に気を付けろ」


そんなに心配なのか、痛い程の視線を受けながら這い登るけど、私ももうすぐ30になるのにな....
いつまで経っても心が休まらない子供扱い


「パンツ見ないでよ?」

「馬鹿な事を言ってる暇があったらしっかり掴まれ」


いつも見下ろしてくる顔を今度は私が見下ろしながら受け取るイルミネーションのライト

少しチクチクするような葉の上に巻き付けるように腕を回して行く

去年の今頃はどうしてたっけ....
忙しいお店を手伝いながら一人になっては泣いてたかな

狡噛さんは

どうしてる?

きっとどこかでは生きてるとは思うけど、誰かと幸せになってたり
それか、また紙の本とタバコに耽ってるとか

どうであってももう会えない事が心に複雑で
同じように楽しいクリスマスを過ごしているといいな

....なんて

私に思う資格はあるのだろうか


「....え!」

「っ、ダイム!」

「待って待って!伸兄!」








「はぁ....無事か?」

「自分の心配してよ!」


うつ伏せに重なった胸の上で横に倒れているのは脚立
その物音に驚いたのか、ダイムも自分の小屋に戻ってしまった

恐らく好奇心からダイムが体重をかけてしまったのは脚立の脚で
意外と重いその身体で私のバランスを崩させる程の衝撃を与えた


「どこか打ってな....って、また義手!盾じゃないって言ったじゃん!」

「腕を折るよりはいいだろ」

「....もう!」





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