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「「メリークリスマス!」」

「まず何から食べますか?」

「ピザにしましょう!」


宅配で届けてもらった多くの食べ物をテーブルに女性陣が5人

はぁ....

許可はしたものの何故こうなってしまったのか
賑やかな集まりごとはあまり得意じゃないんだが


「おいしい!これどこのですか?」


案外楽しそうなその姿を見ると、悪くはないかとダイムと見守る

部屋の中はどこもかしこもクリスマス気分だ
主に名前が選んだ装飾を"ああじゃないこうじゃない"と言われながら今日の午後取り付けた

少し前まで霜月の事などであんなにも沈んでいたというのに
あいつは切り替えが早いな
もう既にそこまで気にしていないように見える
それでも好いてはいないようだが

常守とも多少は和解したらしい
"女の子と飲み明かした夜は楽しかった?"等と時折毒付いて来るがそれ以上は特に無い
昨日も突然"一緒にお昼食べて来る"と言われ、代わりに須郷と食堂へ行った俺は紙袋を渡された
中には丁寧にラッピングされた箱


『....自分で渡さなくていいのか?』

『名前さんにではなくご夫婦お二人へのプレゼントです。自分はやはり女性物の好みが分からないもので....』


とその後中身を開けるとなかなか高価なウィスキーだった
....酒には酒で返すべきか?


「私も青春に戻りたいわ、若いっていいわね」

「そんな、何もありませんよ。見ての通り独り身ですし」

「学生時代に告白とかされなかった?」

「私なんかより可愛くて魅力的な女の子はたくさんいましたから」

「美佳ちゃんは?つい最近まで青春真っ只中だったでしょ?」

「....桜霜学園は女学校です」



女は本当にこういった話が好きなんだな
俺が学生だった時もそうだ
休み時間廊下で話し込む女子生徒達の横を通れば"社会科学部の"とよく聞いた
それを当の本人である男に伝えても


『知らないな、そんな女いたか?』

『お前は本当に関心が無いんだな。女優業でシビュラの判定が出たと有名だろ』

『そう言うギノはその女が好きなのか?』

『...どうしたらそうなる』

『お互い様だな。それより名前が男と出掛けると聞いたが付き合ってるのか?』

『は!?』

『....言わない方が良かったな。何でもない、忘れてくれ』

『ちょっと待て!男は誰だ!』

『行かせてやったらどうだ?名前もそういう年頃だろ』

『男は誰だと聞いているんだ!』

『聞いてどうする?止めに行くのか?』

『狡噛!』

『...はぁ...分かったよ。俺から話をしておく』



「私なんて青春も何も無かったんですよ!告白してくれた人もいないし、伸兄のせいで全然遊べなかったし」

「確かに昔の宜野座君はねぇ....」

「前に狡噛さんが言ってましたよ、名前さんが可哀想だったって」

「遊びというもの自体を知らなそうね」


そう急に引き摺り込まれた話から一身に視線が突き刺さる
俺は一体ここで何をしてるんだ


「....水もしっかり飲め」

「もう、分かってるよ」


アルコールを消費し続ける名前の手に水が入ったグラスを渡すが、すぐにそのままテーブルに置き去られた
全く、安心出来やしない


「変わった変わったって皆言いますけど、それなら前はどんな人だったんですか。....宜野座さんって」

「あら!美佳ちゃん気になる?」

「ぶ、部下の事を知るのも上司の務めです!」

「....へぇ、美佳ちゃん意外ねぇ」

「志恩、それ以上はダメよ」


目の前の菓子類に手を伸ばした隙を突いて酒を取り上げ、水を目の前に置く
自室とは言え潰れられては困る


「学園で会わなかった?確か何日も聞き込みしてたわよね?」

「どんな人に聞き込みされたかなんて覚えてるわけないじゃないですか」


「学園で事件でもあったの?」


そう一度会話から外れて耳打ちして来た名前は、もう随分と火照ってきている
先が思いやられるな....


「槙島に関連する事件で、霜月の友人が犠牲になった」

「....そうだったんだ...」



「もう昔の宜野座君と言ったらね?嫌な程真面目で」

「よく怒鳴ってましたよね」

「人生楽しい事無いのかと思ってました」

「....本人を前にして堂々とした悪口だな」

「一言で言うと、とにかくうるさい、うざったい、面倒臭い」

「あはは!名前ちゃんが言うとさすがに刺さるわね」

「はぁ....」


これだからこいつは
もう少し恩というものを返せないのか


「そろそろかな」


突然そう俺の手を抜け立ち上がった名前は少しふらついている


「どこに行く?」

「仲間外れはやっぱり可哀想だよ」

「....まさか、呼んだのか?」





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