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「名前さんを叱ってませんよね?」

「隠そうとしていた事は"注意"した」

「宜野座さんの注意は叱責です」

「....だが名前の魂胆も酷いものだぞ。ワンピースはその男に買わせ、俺から貰った小遣いを貯めるつもりだったらしい」

「っ!それは賢いですね!」


引き摺り出していた記憶のその後は、狡噛が"あいつは急用で行けなくなったから、代わりに一緒に行くか?"と提案していた
それを必要無いと拒否した俺に、帰宅してから噛み付いては来たものの、すぐに話の焦点は例の男に移された


「でも驚きました。狡噛さんは名前さんのそう言った事柄には比較的賛成派だったと思ったんですが....宜野座さんとは反対に名前さんをもっと自由にさせてあげるべきだって」

「"さすがにあんな男はダメだ"と言っていたな。俺は良く知らないが、察するに遊び人だったそうだ」

「何だか側から見ると素敵な人達に守られてていいなと思いますけど、当人からしたら余計なお世話だと感じちゃいそうですね....」

「名前はそもそも好意を抱かれている事すら気付いていなかったがな。廊下でぶつかったお詫びをしたいが為の外出だと思っていたらしい」

「ふふっ、確かにそれなら洋服くらい買ってくれそうですしね」

「仮にも先輩だぞ、図々しいにも程があるだろ」

「最終的に買うかどうかは相手次第ですから、私はいいと思いますよ」


全く...
鈍感なのか
大胆なのか
自分が相手に興味が無いとしても、もう少し慎重に行動してもらいたいものだ


「でも、その男子生徒の想いは名前さんにはちゃんと伝えたんですか?」

「....いや....」

「....そうだろうと思いました」








『もう!何でそういつもすぐ怒るの!?』

『隠そうとしていた事が問題だと言っているんだ!』

『いちいち全部教えなきゃいけないの!?普通に出掛けるくらい勝手にさせてよ!』

『もし何かあってからじゃ遅

『何もあるわけないじゃん!二人きりで出掛けるわけでもないのに!』

『....、他に誰が来る予定だった』

『クラスメイトの女の人だって言ってた』

『誰だ』

『....し、知らないよ!先輩全員把握してるわけないでしょ!』

『名前は?クラスメイトだと言ったがどのクラスだ?』

『だから分かんないって!』

『連絡先は?』

『.....』

『お前は顔も名前も、素性が全く分からない人間と外出しようとしていたのか?』

『....サイコパスチェックに引っかかってないんだから、大丈

『そういうところが甘いんだ!現にあの男が他に友人を誘ったと言う話は無かった!お前を油断させる為に吐いた嘘だったかもしれないんだぞ!』

『そんなの!....来れなくなっただけで、私にはまだ伝えてなかっただけかもしれないじゃん!何でもかんでもそうやって悪く決めつけるのやめなよ!』

『決めつけじゃ

『この間廊下でぶつかった時確かに私ちょっとアザ出来ちゃったし、それをちゃんと覚えててくれて"ご飯奢る"って言ってくれたんだよ!?律儀で良い人の何が不満なの!?』

『違

『違わないから!変な事心配してるんだろうけどさ、私ももう子供じゃない!どんな人を好きになるか、どんな人と付き合うか、全部私が自分で決める!伸兄の許可とか見定めとか要らない!』

『....っ、名前!』

『放っといて!』








「結局、次の日の朝まで部屋に閉じこもって出て来なかったな」


"典型的な親子喧嘩ですね"と笑う常守に反して、とても笑い事じゃないように思えてしまう俺が問題なのか

名前の頑固さにはいつも頭を抱えさせられる
俺だけでなく自身までもを不必要に追い込んで行くその屈強な意地は負しか生まない
怯えきって会話すらままならなかった始まりから、いつそんな主張的になったんだ


「じゃあどうやって仲直りしたんですか?」

「はぁ....俺が折れるしかないだろ。買い物に付き添って出来る限りの要求を満たしてやった」

「さすが、女性からしたら理想の男性ですね」

「そんなつもりは無いんだが....」

「ごく自然に出来てしまうのがすごいんですよ」

「....それより、その格好はどうしたんだ?名前と合わせたのか?」

「せっかくですからね、さっき一緒に写真も撮りましたよ!宜野座さんの分もあるので後で

「いいじゃない!お似合いね!」


そう突然響いて来た慣れた声に、出来るだけ体を動かさないようにして振り返る
相変わらず4人が揃ってパソコンの画面に食い入っているが....


「どうしたんですか?」

「朱ちゃんもおいで!」


普段の印象とはかけ離れた短いスカートを押さえながら立ち上がった常守を見送る
恐らく名前の両親のホロだろう

膝を覆う体温を軽く揺すってみても反応が無い
やや赤みを帯びた頬に触れて伝わる熱が、大人びた酒が要因だと言うにも関わらずまだまだ世話が焼けると思わせられる

自らの義手でその左手を取って、共に輝く指輪を重ねる
あの時は"必要無い"と言ったが....やはり悪くはないかもしれないな


「い、犬にも...タキシード....」

「この名前ちゃんすっごい幸せそうねぇ....弥生、私達も撮る?」

「結婚してないわよ」


....待て


「白無垢も良いですね!」

「どちらも名前さんによく似合っていますね」

「あの子は白が得意な色なのかしらね、...あぁ!名前ちゃん照れちゃって!本当可愛いわねぇ、保存してお

「何をしている!」





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