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「ちょっと!今保存するところだったのよ?」

「どこで見つけたんだ!」

「私に見つけられない物があると思う?」

「....もう全員帰れ!騒ぎたい奴は別の場所で勝手にしろ!」


まさかと思い後ろから覗くと覚えのある画像がスクリーンに広がっていた
他人に見せる物じゃないとしていたのを


「全く、ケチくさいわね」

「志恩、本当に怒られるわよ」


プライバシーと言うものが無いのか
俺に聞かずにまず調べたあたり、見るのを許可されないと分かっていただろ


「まぁ、もう日付が変わりますしね。明日も仕事ですよ」

「朱ちゃんは真面目過ぎるのよ」

「その分お給料を貰ってますから」

「翔君この後どう?」

「え...あ....」

「そういう誘いも外でやってくれ、こっちもこれからやる事がある」

「片付けなら手伝いましょうか?私達が散らかしちゃったわけですし」

「違うわよ朱ちゃん、"やる事"って言うのは可愛い妻と

「今すぐ帰れ」







廊下に出て、それぞれが各々の方向へ進み出したのを見届けてから部屋に戻る
ソファには警戒の字一つ無い様子で眠っている名前と、その横にいつの間にかトナカイの格好をしたダイム

平和で穏やかなその光景が素直に嬉しい
周りの人間含め自らの片腕まで失ったが、今有る全てで十分だと思える程俺も歳になった


「一緒に片付けるか?」


そう問いかけた先の愛犬は、一度顔を上げたもののまたすぐに揃えた前足に伏せた
薄情だな...


「....俺の方が世話はしているだろ」






























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「うっ....」


あったかい

頭痛い

いつもの匂いがする

....気持ち悪い


「伸に

「っ、お、起きたか?」


その体温に布団の中で手を伸ばそうとした瞬間に少し揺れたベッド
重い瞼を薄く開けて、変わらない端正な顔を捉えてみる
手元にはタブレットが一つ

私が起きたからって急いで閉じた?


「....なに」

「....仕事だ。気分が悪いなら早く薬を飲め」


ゆっくりと起こした体にはいつものパジャマ
それに着替えた事以前に、眠った事すら覚えてない

怒られたような感覚だけはあるけど

サイドテーブルには、その言葉通り小さな錠剤が2つとコップに注がれた水があって
当たり前になり過ぎていて素通りしちゃう事が多くても、ふと立ち止まると不思議に思ったりもする
どうやってこれ程までに気を配ってくれてるんだろう
それこそ起きて本当に気分が悪いと分かってからでもいいのに

そしてまた

流れ込んでくる水と口内の薬に意識を持って行かれているうちに、肩に羽織らされたのは多分パーカーか何か
コップを置いてから従順に腕を通す私ももう30になるのに....
こんなに甘えてちゃいけないと思いながらも"当然"と言う名の心地良さに沈んでいく


「エッチなビデオでも見てた?」

「朝からくだらないぞ」

「隠さなくてもいいのに、一緒に見

「名前」


そうやって呆れたように睨まれても怯える私じゃない
怖いと言う人も居たけど、ずっと一緒に居て来て慣れたからか
悪い意味は無いと分かってるからか

それともあくまで優しさで成り立っているものだからか


「そもそも見るの?男の人なら普通だとは思うけどさ」


時間を確認してから再び布団に入った私に、小さく溜息を吐きながらタブレットを退かした
今日は私は休み
伸兄は午後から....だったと思う


「そんな事を聞いてどうする」

「どういうのが好みなのかなって、私も努力するからさ」

「的外れな努力だぞ」

「....そういう事言う?」

「事実だ」


そこまできっぱり言われちゃうと....


「....クローゼットの中の段ボール取って来て」


どんな感情よりもまず恥ずかしい

いつもどちらかと言うと理性的で、論理的で
情熱さが無いような伸兄だからこそ、同じ調子でロマンチストのような事を投げられると変に動揺してしまう

再び襲って来た若干の吐き気に、少し起き上がって残りの水を流し込む


「これか....」

「サイズは大丈夫だと思うから着てみて」


布団の上、私の横に置かれた段ボールの中から赤い布地を取り出して眉を顰める姿
"本当に着るのか?"と言いたいんだろうに何も言わないのは、きっと一度了承してしまった思いから


「写真撮るだけだから」

「....お前の分はもう捨てたぞ」

「え!?」

「丈が短過ぎる、何を考えていたんだ」

「そ、そんな捨てなくても....!一緒に写真撮れないじゃん!」

「わざわざ仮装をして撮る必要は

「何も分かってない!クリスマスは少しはしゃいじゃうくらいが目的なのに!何で勝手に捨てちゃうの!?」

「それでも限度はある!他人の前で下着を見せびらかそうとするのが良しとされるわけ無いだろ」

「なにそれ!?ミニスカートくらい女の子なら誰でも履くじゃん!」

「それは自分で自分の身を守れる人間の話だ!お前は本当に文字通りわざと見せようとしていたんだぞ」

「え....」

「刑事課にそこまで悪い奴もいないだろうが、嫌に興味や好奇心を持たれて良い事も無い」

「な、何したの....?私」

「酒もそうだ!

比較的弱い言うのに記憶を失くすまで飲んで、これがもし外だったらどうする?取り返しのつかない事に巻き込まれたら後戻りも出来ない」

「....」


なんだか立場が悪くなって布団を頭から被る

"家だから"
"伸兄も近くにいたから"
と言えば言い訳になるし、
"その場の雰囲気で"
じゃ余計分が悪い


「だいたいお前はいつも自己防衛の意識が薄過ぎる!社会が善人だけで成り立っているわけが無いだろ!いくらシビュラに精神状態が監視されているとは言え、誰かに好意を向ける事は悪とはされない。望まない好意は始めから避けるべき

「もう分かったから!とりあえず早く着てよ!」


クリスマスの朝からお説教なんて勘弁





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