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カーテンから差す日の光で目を覚ます


目の前には綺麗な寝顔

寝顔自体見た事ないわけじゃなかったけど、こんな近くでは初めてだ

やっぱり眼鏡かけてない方がいいよ
そう言っても絶対聞かないだろうけど


そんな私にとっては特別驚きでもない顔も、その下も肌色だと話が変わってくる
....文武両道なのは知ってたけど、意外な体つきだ


フローリングに足を着けると、白いワイシャツが目に入りそれを拾い上げて自分に着せる
さすが持ち主が高身長なだけある
私にはワンピースだ





そのままキッチンでコップを片手に蛇口を捻る
冷たい水が喉を通って行くのがはっきり分かる


「ダイム、おはよう」


変わらないダイム、変わらないリビング、変わらない窓の外の東京
何もかも昨日までと同じなのに、自分の格好だけが異常



ソファに寝転がり両眼を腕で覆う




「.....何やってんだ私」




ワイシャツの袖から香る匂いは、まるで自分のシャツなんじゃないかと錯覚させる

普通こういう時は「あー彼氏の匂いだ、落ち着く」とか思うものなのだろう

そんな思考がまた私に現実を突きつける





こんな事になると誰が予想しただろうか

お父さんが知ったらなんて言われるかな....




その傍ら、私の目的は果たせたらしい
最も、狡噛さんを忘れられたわけではない
でも色相チェッカーによると、気分はだいぶ晴れたらしい

本当に皮肉な事だ
























それにしても初めてが





「....まさか伸兄だなんて....」







「悪かったな、俺で」









その声に急いで体を起こすと、そこには監視官の姿があった
某ブランドの高級スーツが本当によく似合っている



「....今日仕事なの?」

「あぁ、帰りは遅くなるかもしれない」



私のドクターストップもあと2日で終わりだ
そしたらまた仕事の毎日に戻る
狡噛さんのいない公安局ビルで




「....結局忘れられてないのか?」

「なんで分かるの」

「顔を見れば分かる」



私はそんなに分かりやすいのかと少し落ち込む



「....ねぇ、眼鏡は?」

「寝室だ、出掛ける直前にかければいい。いつもの事だろ」



そうコーヒーを飲みながら厚生省の推薦ニュースを見る姿から目線を逸らす



「....今すぐかけて」

「は?」

「いいから!」

「何がしたい、今までだって家ではかけてなかっただろ」

「なんか....思い出しちゃうの!」




昨夜の表情を
適度に鍛えられた肉体を
余裕のない吐息を





「....そういうお前こそ、その格好をどうにかしろ」

「なっ....」



伸兄の指摘に急激に恥ずかしくなって自分の部屋に駆け込んだ




このままいつまでも変態な思考をしてちゃいけない

そう思って伸兄の嫌なところを考えようとするが、いつもだったら簡単なのに、すぐに既存の思考に邪魔される


....最悪だ

もう叶わない恋を忘れて心が楽になれると思ったのに、違う意味で失敗した








































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「何かいいことでもあった?宜野座監視官?」


やけに後半を強調してこちらを見る唐之社


「何も無い、無駄口を叩いてる暇があったら仕事しろ」

「私も、監視官今日は昨日より空気が柔らかくなった気がします」


カップうどんをすすりながら唐之社に便乗する六合塚は、一係の欠員に関してもあまり様子を変えなかった


「....どう違うと言うんだ」

「なんだか今日はフェロモンを感じるわ.....
 たっぷり....出しちゃった?」




そう鼻の先の距離まで詰め寄る唐之社から後退る




「何の話だか分からない!それよりもさっさとデータの解析を済ませろ!」

「あら、それが人に物を頼む態度?」

「監視官、慌てすぎですよ。それでは墓穴掘ってます」

「.....終わったら転送しろ!六合塚はもうオフィスに戻れ!」

「いくら最近色々あって溜まってたからって、あの真面目な監視官様がねぇ....アリよ、そういうギャップ。相手はどんな子?」

「黙れ!休憩時間じゃないぞ!」

「志恩、からかい過ぎよ」

「ごめんごめん、まさかこのお堅い男から色気を感じる日が来るとは思わなかったから。弥生嫉妬しちゃった?」





また始まった痴話に耐えきれなくなって足早に分析室を出た





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