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「名前、食べないの?」

「ちょっと食欲無くて....」

「確かに痩せたんじゃない?大丈夫?」


懐かしい
皆少し大人っぽくなってて、人事課ならではの単語が飛び出したり
変わらない友情が新鮮に感じる

なっちゃんに会いに行くようになってからは、他の当時の同僚にもそれ伝いで再会して、数日に一度以前と同じように公安局食堂での昼食を共にしている
"あの時はびっくりしたよ"等とだけ言われ、具体的な事は詮索してくれないでいるのが心地いい

正直、今一番気楽にいられる空間だと思う
オフィスでも唐之杜さんの宿舎でも、どうしても感じてしまう圧迫感
許してあげない、話すら聞いてあげない私が責められているようで


「ちょうどダイエットしようと思ってたところだから!」

「ちょ、名前がダイエットなんて私はどうすれば良いの?」

「そうだよ!どんな姿でも溺愛してくれる旦那様がいるのにさ」

「うっ、ごめん....その話は今は....」

「え?まさか喧嘩中?」


実際確かにもう私が悪いところまで来ている
初めの内こそ態度や文言含め、理不尽過ぎる行動をとった伸兄が圧倒的に不利な立場だった
唐之杜さんも私に味方して、伸兄を攻撃するような発言ばかりだったのに
今は"帰ってみたら?"と言われるのがほとんど

そもそも会いに来てくれても良いじゃん
どうせ、悔やんでると言うよりも心配してるんだろうから、私が元気かどうかくらい見に来ないの?
と思いつつ、本当に来たら拒絶するのは自分でも分かってる

こういうところなんだろうな....
私が子供扱いされる理由って
帰ってどうするの?何も解決しないじゃん
と、帰らなくても解決しない状況で駄々をこねる


「大人な女性って、どうしたらなれるんだろう....」

「...まさか名前ご無沙汰!?」

「ご無沙汰?何が?」

「誤魔化さなくてもいいよ!もうどれくらいなの?」

「な、何の話?」

「3ヶ月以上で危ないって聞くよ?」

「だから何が!?」


困惑する私に返って来たのは呆れたような表情
そんなに知らないとまずい事なの?


「はぁ....相変わらずだよね名前は。大人な女性なんて遠いんじゃない?」

「え?」

「もう私達アラサーでしょ?そこまで純真なのはもはや羨ましいわ」

「育ちが良過ぎたのかな」

「ねぇ、皆していじめてる?」

「名前はそのままで良いって事だよ。そんなふうになりたくてもなれないんだから」

「そうそう、女の幸せは男だよ男!どんな姿でも愛してくれるなんてそれ以上無いよ!」

「私は真剣に悩んでるんだけど....」


贅沢な悩みなの?
隣の芝は青いって?


「そういえば昨日の、すっごい可愛かっ

「しっ!」

「え?あ…」


何?今の…
何となく嫌な感じ…


































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「お昼行ってきます」


「…何かあるんですかね?」

「あぁ、人事課に居た頃のお友達に会ってるらしいわよ。私も同い年だけどやっぱり違うんでしょうね。明らかに楽しそう」


妙に上ずった声でオフィスから出て行った背中は、私たちの前ではずっと重苦しい
仕事こそは驚く程にしっかりしてるけど、口数も少ないし顔色がよくない時もある
唐之杜さんによると、食事は足りるだけは摂っているそう


「私達がプレッシャーを感じさせちゃってるのかもね…そういえば宜野座君は何て?」

「やはり外出には反対だそうです。それと名前さんの健康状態が心配だと」

「まぁ、十分には健康だけど…あの男が許容する範囲内には無さそうね。まさか朱ちゃん言っちゃってないでしょうね?」

「言えるわけないじゃないですか…余計に面倒なことになりますよ。"医師免許を持つ唐之杜さんがいるから大丈夫ですよ"って答えておきました」

「ちょっと!バレたら私の責任になるじゃない…」

「その時は皆でお互い様です」

「はぁ...嫌な予感しかしないわ…」


名前さんの次の外出予定は明日の午後
少し前に無事出産を終えたはずの時で、赤ちゃんに会えるのを楽しみにしていた

でも宜野座さんの言いたいことも全く理解できる
過去にその苦痛を経験したからこそ
名前さんを本当に大事に思っているからこそ
どんな危険にも伴わせたくない

だけど私は、監視官として人間の温かみを持った潜在犯と多くの時を共にしていると同時に、宜野座さんが信頼を置かないクリアカラーを持つ人間の一人でもある
犯罪係数なんて数字じゃなくて、正しいものは正しいままに、間違ったことは正当に裁かれる
そんな世界を願いたい私が異常なのか


「明日復帰なのよね?大丈夫なの?」

「話をしたのは3日前なので....無理はしないようにと、もう一度念は押しておきます」






























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「もう家には誘わないでって言ったじゃん!」

「そんな、突然断れないよ!すごい楽しみにしててくれてたし....」

「嘉仁君怖くないの?本当に赤ちゃんの事考えてる?」

「だって本当の事は言わないでって。それじゃ何て理由を付ければいいんだよ」





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