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「ねぇ!勝手に乗せないでってば!」

「お前が選んでいる物が偏り過ぎなんだ!」

「せっかくのビュッフェなんだから好きにさせてよ!」



「相変わらず仲良いわね、あの二人」

「刑事課の癒しですよね」

「本人達は多分今そう思ってないでしょうけど」


夕食時
ビュッフェスタイルでそれぞれが各自自由に食べたい物を乗せたプレートを囲んでもう席に着いている頃
私達の視線の先には戯れ合う可愛い身長差カップル


「潜在犯同士の夫婦が癒しなんて、先輩どうかしてますよ」

「美佳ちゃんはやっぱり受け入れられないみたいね」

「受け入れる理由もありません」

「そうは言っても本当は羨ましかったりしてるんじゃない?」

「なっ!そんなわけ

「彼氏まだいないでしょ?お姉さんがいい男探してあげようか?」

「要りません!」


そう大袈裟に拒否して見せた美佳ちゃんも、実は....って事も無いとは言えないと思うのよね
慎也君もそうだったけど、罪な男程自覚が無いもの


「こんなにサラダ食べたら後でケーキ食べれなくなるじゃん!」

「どうせその時になれば別腹だとか言うだろ」

「...んもう!」


自覚が無いだけならまだ良いものの、無いからこそ手加減無しに周りに刃を突き刺す
特に宜野座君なんか、一緒にいるとまるで自分は女じゃないみたいに錯覚しちゃうのよ
執行官になってからは紳士的で色っぽい男に様変わりしたのに、全然優しくはないんだから

この間だって、分析室で会議中
合間の休憩時間から戻って来たと思ったら、ホットココアを名前ちゃんだけに渡して
私は相変わらずの愛妻家で微笑ましい限りだと思っていたけど、美佳ちゃん違ったみたい

『いつもいつも何なのよ、一人だけ贔屓して』

って漏らしてるの聞こえちゃった
まぁ、私は弥生がいるから良いけどねぇ?



「朱ちゃんだってそろそろじゃない?」

「そんなまだ大丈夫ですよ、今は仕事が大事ですし」

「そうやって忙しい時こそ労ってくれる存在は必要だと思うわ」

「....でも難しいんですよ。この仕事してると言えない事もたくさんありますから」


若い監視官二人が大変そうで、現実的に自由を失った私達執行官の方が楽観的なのは皮肉かしらね




































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「お前は良いのか?」

「そう言う宜野座さんこそ良いんですか?」

「プールくらい公安局にもある」


プールサイドのベンチからは頭上に広がる星空が本当に美しく見える
東京じゃ人口の明かりが強過ぎて、月ですら霞んでしまいそうなのに

露天のプールではあるけど水はちゃんと温水らしい


「最近名前さん、綺麗になりましたよね?」

「....そうか?これと言って変わってはいないと思うが....」

「ああもう、私が名前さんなら泣いてますよ。宜野座さんって時々デリカシー無いですよね」

「嘘を吐くのはデリカシーじゃないだろ」

「そういうところですよ。スキンケアにハマっていると聞きました。確かにお肌が明るくなったと思います。肌が変わると印象は大きく変わりますからね」

「....俺には分からないな」


向かいのプールサイドには、更衣室から出て来た女性が4人
ビキニなんて着た事あったかな....


「意外だな、霜月も入るのか」

「さっき唐之杜さん達に引っ張られてましたよ。本人は嫌がってましたけど結局押されちゃったみたいですね」


でも、私はそれよりも....名前さんの方がイメージより....
グループを離れてこっちにまっすぐ小走りしてくるのを見てて、女なのにドキドキしてる
着痩せするタイプなのかな....?
スタイルは私より良さそうな印象はあったけど、あんなに....?

"ヘアゴム貸して"と告げられた宜野座さんは素直に自らの髪を解いてそれを渡した


「常守さん本当に入らないんですか?水着なら更衣室に使い捨ての物もありましたよ」

「いえ、私は....」


ショートヘアの私には出来ない髪を束ねる仕草
何だかそれが艶やかに見えて来る

そうやって見惚れかけていた時に発せられた声は


「そんなジロジロ見ないでよ!」


私に向けられたものかと思い背筋が伸びた


「酷い!違うって分かってるくせに!」

「そういうつもりじゃ

「変態!」


大きなバスタオルを投げ付けられて、すぐに顔を覆って深く溜息を吐く音をさせた宜野座さんを見ると


「....顔、赤いですよ」

「....やめてくれ」


指の隙間から見えるいつもならかなり色白な肌が綺麗に染まっていた
私が勝手にそういう印象が無いだけで、やっぱり男性なんだな....


「でも、"違う"ってどういう意味だったんでしょうか」

「あれは唐之杜から借りた水着だ。その....あるだろ、詰め物のような...」

「あぁ、パッドですか?」

「それも何枚か借りたらしい」

「....なら名前さんが怒るのも仕方ないですね、後でちゃんと謝ってあげ

「いや俺はそれが言いたいわけじゃ、っ....俺達は何の話をしてるんだ」





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