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「名前ちゃん今こっち来れる?」

『今ですか?さっきお風呂入ってまだ髪乾かしてなくて....』

「それならゆっくりで良いんだけど、一応そっちのご主人とタブレットは預かってるって事だけ伝えておくわ」

『....え!?あ、い、今すぐ行きます!ちょっとだけ待って下さい!』





「だそうよ。そもそもどうして私だって分かったのよ」

「こんな事を堂々とするのはお前くらいしかいないだろ」

「あなたの中で私はとんだ悪人ね、心外だわ」


タバコの煙を吹きながら画面をスクロールする
....やっぱり
もうトップ5入りしてる
あの子の事だからこれでも、"なんで私が"って納得出来てないでしょうね
宜野座君ももうちょっと一般的な青春を送らせてあげてたら、ここまで異性との事に疎くなかったはず


「"大変申し訳ありません。
近頃は仕事が忙しいのでお会いする事は出来ません。
せっかくお誘い頂きましたところ恐縮ではございますが、またご縁がありましたらどうぞ宜しくお願い致します"
って、あの子これを面接か何かだと思ってるの?あなたどんな教育してるのよ」

「だから日時を変えた提案の返事が沢山来てるのね。断ってるのに相手に希望も持たせてる。とても"あの"宜野座元監視官が育て上げた子には思えないわ」

「....無愛想で悪かったな」

「自覚があるだけまだマシね」


肩に着くほど伸びた髪を下ろして、服装も快適さを重視した部屋着
こんなにラフな姿も昔よりは見るようになったけど、それでも中々無い
身内である名前ちゃんにしか見せない表情がきっとまだ底が知れないくらいある
まぁギャップ萌えなんて言葉も100年以上前からあるくらいだから


「ところで、朱ちゃんの恋人役を買って出たって聞いたけど本気なの?」

「あぁ。大丈夫だ、名前も連れて行く」

「だからそこが問題なのよ」

「....どういう意味だ?」

「常守監視官には申し訳無いけど失敗に終わりそうね」

「でも須郷執行官は正直者過ぎるし、翔君は....私が朱ちゃんのママなら余計心配になるわ。そういう意味じゃ一係にはまともな男がいないわね。慎也君がいればそれが最善の選択だったと思うけど」

「ちょっと待て、どうして名前を連れて行くのが問題なんだ」

「そりゃだってあなた


ピンポーン

良いタイミングなのか悪いタイミングなのか
この場にいる全員の注目を集めたベルの音の先はきっと


「....俺が行く」


この速さだと恐らく着替えただけでしょうね
扉が開かれた瞬間すぐに行われた答え合わせの結果はやっぱり正解


「なんで勝手に見たの!?パスワードも掛けてたのに!」

「お前のパスワードはあって無いような物だろ、それより髪はすぐに乾かせと何度言えば

「はいはい!痴話喧嘩は後にしてもらって、ドライヤーくらい私達のを使って良いから」


全くこの二人は....
例えるなら威勢の良いチワワと、小心者の狼みたいね
至極簡単にパクッと行けちゃうのに絶対にそうしない
むしろチワワに圧倒されて尻尾を丸めちゃう事もあるくらい

弥生が持ち出してくれたドライヤーを受け取った狼さんは、それは丁寧に手つきでチワワちゃんの髪に指を通す
本当に自然界でそんな事があったら笑っちゃうけどね


「それで名前ちゃん、どうだった?」

「....正直よく分かりません。私より可愛い子は沢山いるのに....女優さんみたいな人とか....」

「例えば...この人かしら?」


適当に見つけたランキング上位の子の顔写真を拡大表示して相手に向ける
長い黒髪が印象的で、どちらかと言えばクールそうなイメージだけど


「あっこの人!伸兄ほら!」

「え?もしかして知り合い?」


髪を乾かされてるにも関わらず遠慮無しに振り返った行動に少し億劫な顔をしながらも、諭された通りにこっちの画面に目を向けた宜野座君
私は眼鏡良く似合ってたと思うんだけど
そんな事を思っていると


「っ、はぁ....」


明らかに煩わしそうに頭を抱えた


「....な、何か不味かった?」

「高校の時から伸兄に片想い中の人です!なんでオーケーしなかったの?ほら!すっごい綺麗な人なのに!もったいない!」

「馬鹿か!毎日毎日俺の精神も時間も金も削っていたのはどこの誰だと思ってるんだ!」

「っ酷い!私のせいなの!?」

「だいたい俺はお前が

「大好きで仕方ないのよね?」





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