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「....志恩」

「....えぇっと...話を戻すわね」


二人とも息ぴったりに固まっちゃって、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃない
うんともすんとも言わないし
もういい加減に認めちゃえばいいのに


「名前ちゃんが思うにもっとモテるはずな人って、こういう人を指すのよね?」

「まぁ、はい....」

「それはどうして?」

「どうしてって、だから....どう見ても私より整った容姿をしていますし....」

「あえて正直に言っちゃうけど、確かにこの写真の人の方が名前ちゃんより顔は良いわ」

「おい!唐之

「だけどそれはパーツ上の話」

「パーツ上....ですか?」

「そう。目の大きさとか、眉の角度とか、唇の厚さとか、パーツそれぞれが整っているだけでそれが男心を掴むとは限らないのよ。大抵の人間はね、誰かに対して好意的な感情を持つには親近感がある程度必要なの」

「...親近感...」

「有名人にもいるじゃない?顔も体型も黄金比をそのまま映したような、人間離れした雰囲気の人」

「はい、まるで絵みたいな人とか....」

「多くの人間はそういった相手に現実味を見出せない。素敵だなって憧れはしても自分の私生活に入って来る事が想像出来ない。特に男は勝手に女の子の事を守ってあげたいってよく思うから、あまりにも完璧な女性って少しプレッシャーに感じちゃう、でしょ?宜野座君」

「俺に聞くな、そんな事考えたことも無い」

「まぁ...宜野座君はちょっと特殊なんだけど....とにかく!名前ちゃんは自信をしっかり持って良いくらい外見はよく整ってるし、何より愛嬌がすごいのよ!それこそ写真越しでも伝わるくらいの魅力がある。言葉では上手く表せないんだけどね....」

「....で、でもなんか、釣り合わない....みたいな....」

「って誰かに言われたの?」

「それは....いえ、言われては無いです....ただ伸兄が好きそうなイメージと違うって」

「....もうやめてくれ」

「あはは!」

「志恩、気持ちは分かるけど笑うところじゃないわよ」


そりゃ笑っちゃうじゃない
二人を少しでも知っていれば
ううん、例え初対面でも宜野座君にはこの子以外あり得ないって分かるのに
よっぽど表面しか見えてないのね
クールで寡黙で冷たそう?
笑顔なんかとは程遠い?
こんなに一途に温かな愛を築いている男こそ、その対象の前では柔らかく笑うものよ


「ごめんごめん、そうね。でも気にしたら負けよ。他人がどう言おうと、名前ちゃん自身がどう思おうとあなた達は互いが互いを選んだ。宜野座君はこんな美女に誘惑されてもびくともしないし、あなたはあなたでこの大量の誘い、気に入った人はいた?」

「....無いです。もちろん会ったことも無いので正確な事は言えませんけど....」

「会っても変わらないわよ。私が断言してあげる」


そもそも変われないでしょうね
それくらい二人の強い絆は明白
どうしても他人がそこに立ち入りたいと言うなら別の枠を見つける他ないけど、それも恐らく今頃どこで呑気にタバコを吸ってるか分からない男が占領済み
なんなら宜野座君の別枠だってそうなんじゃない?
なんだかんだ言ってかなりの信頼を置いてたし

はぁ....慎也君
あなたのタバコはどうも好きになれないわ
よく飽きもせず吸ってたわね

佐々山執行官、ねぇ....
復讐ってこんな味なのかな


「ほら、名前ちゃん、1位になっちゃった」

「え、本当ですか?」

「嘘じゃないわよ。さっきの女にも勝ったのよ」

「....もういいだろ、アカウントを消去してくれ」

「ちょっと待って、返信し終わったらちゃんと退会するから」

「そこなんだけど、名前ちゃんもしかして返信しなきゃいけないって思ってる?」

「....し、しなくてもいいんですか?」

「する方が珍しいのよ」


































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「私モテるんだって!」

「分かったから早く寝ろ」

「すごくない?フレンチ奢ってくれるって人もいたんだよ!」

「まるで一度も奢られた事が無いみたいに言うな」


全く、俺にはいまいち理解出来ない
どれだけ異性に好かれるかが何故こんなに重要なのか

唐之杜は
『女同士はあなたが思っている以上にドロドロで見苦しいから』
と言っていたが余計にくだらない


「違うよ!あのほら、渋谷の近くにあるすごい有名なところ。ちょっと調べてみたんだけど6品のコースで一人3万円近くするの!」


だが、これだけ月光に照らされただけの暗闇の中でも分かる程の明るい表情をしてくれるなら、その重要性は認めざるを得ない


「今度機会があれば行こう。だからもう二度とああいった物に手を出すな」

「妬いちゃった?」

「インターネット上のコミュニティから発展する犯罪はこの時代でも少なくはない」

「そうやって素直じゃないのが伸兄の悪いところだよ」

「....いいからもう早く寝ろ、明日は絶対に遅刻出来ないぞ」


ツインの部屋で使われる事の無かったベッドはもはや物置になっている
....朝食に行く前には片付けるか





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