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「それで、どう話したんだ?」

「経済省の職員で、歳は私の3つ上。お互い忙しいのでまだ数回食事をしただけだと伝えてあります」

「....大丈夫か?俺は今30だぞ」

「全然そうは見えませんよ」


沖縄から帰ってくると東京はまだちょっと寒く感じる
よく晴れた今日、私はその天気を車内から見上げて確認してる


「いつシビュラの診断を受けた?」

「1月の末頃です。そこですぐに連絡を取り合って1回目の顔合わせをしました」


千葉か....
行った事あったかな....?
旧時代にすごく大きな遊園地があったとか聞いた気がする
それから日本の玄関とも呼ばれる空港とか


「それはどこだ?」

「そ、そこまでは話してません...今決めますか?」

「そうだな、映画でも見に行っ

「もう落ち着きなよ。テスト受けに行くわけじゃないんだから」


目の前の助手席には、メモも取りながら熱心に聞き取りをする姿
絶対に失敗したくないって勢いだけど、その分緊張してるのも見て取れる
生真面目な性格だしこれくらいが普通なんだろうけど、まだまだ時間はある
観光を先にする予定だし


「名前さんの言う通りですよ。両親も取って食べたりしませんから。娘の私が言うのもなんですが優しい人達なのでそんなに心配しないで下さい」

「だが....」


私はやっぱり一緒に行かない方が良いんじゃないかって実は話をした
だって普通に考えておかしい
"彼氏"を親に紹介するのに"友達"が付いてくるなんて

でも"一人置いて行くわけにはいかない"って押されて、結局今後部座席にいる

こんなに何日も連続でスーツを着てないのは久しぶりだし、指輪が無い手元もどこか落ち着かない
だけどちょっとワクワクもしてる

昨日公安局に帰って来た後、カウンセリングの予約があったから出向いところ、すぐに"何かいい事でもありましたか?"と聞かれた
確かに自分でも分かるくらい、ここしばらくで一番気持ちが澄んでる

潜在犯に落ちた
大きな"罪"を犯しながら全てから逃げた
もう遠い過去みたいだけど凄惨な事件も経験した
そして施設に隔離もされた
一生出られないと酷く嘆いた
そしたら執行官になった
目の前で多くの人が亡くなったのも見た
配属されたばかりの係が散り散りになった
異動になった先の新しい若い上司がどうしても受け入れられなかった
夫の性格の変化に喜びながら戸惑いもした
信じてた友達に失望もした

これが全て約半年で起こった事なのだから、自分が思う以上に精神が不安定になるのは間違った事じゃないってカウンセラーの先生が慰めてくれた
そうやって専門家の人が正当化してくれるとかなり心強い
もちろんここ最近の唐之杜さんの助けも本当に大きかったし、ちゃんとお礼しなきゃだな....

千葉でお土産買えるかな

































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「朱!」


久々に見る両親の顔
最後にここに来たのはいつだろう

仕事が、って真っ当な言い訳を並べて避けてたのは、もしかしたら親友や祖母、元部下を失ったり、シビュラの中枢を知ってしまった動揺からなのかもしれない

かなり現実離れした私の現実


「なかなか帰れなくてごめんね、お母さん」

「何謝ってるの、大変なのはよく分かってるから。....それで、もしかしてあの人が?」

「あぁ、うん。お父さん大丈夫かな」


玄関の前
意味深長な面持ちでいる父


「緊張してるだけよ」


正直、私の方が緊張してる
宜野座さんなら十分過ぎるとは思うけど、でも所詮は嘘
狡噛さんなら"家族なんだろ、騙す必要あるか?"なんて言いそうだな....


「どうぞ、上がって下さい」














「じゃあ紹介するね」


幼少期から馴染みのあるリビング
ここに宜野座さんと座る事になるなんて、"ガキだ"と言われ私もムキになった日から考えるととても信じられない
潜在犯や執行官に対する処置の方針で何度もぶつかって....
懐かしい


「こちらが宜野座伸元さんで、こちらが....」


あっ....そうだ、名字
全く考えて....


「名字です。名字名前。普段名字で呼ばないから忘れちゃうよね」


"友達"と言う設定を意識した口調に驚きを隠せなかった私が空白の時間を作ってしまったと気付いたのは、お茶を淹れてくると言ったお母さんと一緒に立ち上がった名前さんが視界で動いてからだった





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