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「だと思ったわ、あなた分かりやすいのよ。隠しもしないし」

「もう掘り返さないでくれ....」

「ご両親の方は大丈夫だったんですか?」

「はい、ちゃんと話をしました。最初からそうしていれば良かったんですけどね....今回の事は私自身の責任です」

「でも朱ちゃん、もし本当に困ってるならシビュラに頼ってみるのも

「そういう話は後にして下さい!先輩も先輩です!会議中なんですよ!」


霜月さんの声が響き渡ったここは、いつも少し薄暗い分析室
20分くらい前にオフィスからここに移動して来て、まだ概要を説明し終えただけくらい


「ふぅ....それにしても刑事課はいつからこんな何でも屋になったのよ」

「街がそれだけ平和だって事ですよ、喜ばしいじゃないですか」


広がる灰色の煙
その姿はいつでもどこか妖艶
私には絶対似合わない

今日もきっちりとスーツを着て、シンプルなローパンプスでソファの後ろに立つ
最近何だかこのスーツが前より映えてる気がする
スキンケアを始めたから?
"遅刻するぞ"とか"必要無いだろ"と言いながらも側で待ってくれる間に化粧をするようになったから?

心が穏やかになったからかな

....いや、無駄に身体のプロポーションが良い人間が一番近くにいるからかも


「んで、その廃倉庫っていうのがこれね」

「....随分廃れてるわね」


部屋の中を照らす明かりの色が変化した先は、"いかにも"な雰囲気を醸し出している大型倉庫の外観
依頼の内容は市民からの度重なるクレームで、人が居ないはずのこの倉庫から夜な夜な音がして気味が悪いとの事


「監視カメラも街頭の物だけで、中を映すスキャナーは無いわね」

「建物の構造は2階建、古い資料によると2階部分に10程の部屋があるそうです」

「その音というのはどんな物だ」

「通報者によって様々です。少女の叫び声だとか、複数人の足音だとか。中に入って確認して見ない事には何とも言えなさそうです」

「見て分かる通り、大した事件でも無いので全員で行く必要はありません。今回は2名程私に同行して貰います」


霜月さんと....
もういい加減嫌じゃないけど、ちょっと人使いが荒いというか....
それが監視官として正しい執行官の使い方だとは分かってるけど、異例であるべきな常守さんのやり方に慣れてしまうとやっぱり好めない
あとはこれは所謂女の勘ってやつだけど、どうも敵対視されてるような気もするのが正直なところ


「行きたい人はいますか?」

「.....」

「.....」

「.....」

「残念だけど私の職場はここだから」

「...誰もいなければ行ってもいい」

「え、伸兄行くの?」

「....どういう意味だ?」

「いや、ホラー映画でもグロは平気だけど心霊系は苦手だから嫌かなって」

「あはは!あなた可愛いところあるじゃない!名前ちゃんナイス暴露よ!」


私はどちらかと言うと逆
グロテスクな映像はリアルな感覚が強過ぎて目を覆いたくなるのに対して、幽霊とかは有り得ないって分かってるし
どうしても作り物な気がしてしまう


「私も行ってもいいですよ」

「じゃあお二人で行かれますか?」

「別に構わな

「却下です!」


と被せるように声を張った霜月さんに全員の視線が注がれる


「この二人で一緒に行くと、どうせイチャイチャしだして仕事になりません!」

「で、でも二人ともそんな人じゃ

「今回の指揮は私です!」


....言いたい事は分かる上に、擁護しようとしてくれた常守さんにも申し訳なくなる
伸兄も伸兄でいかにも"来て"そうな顔だし
仕事は仕事だと、私が知る限りでは誰よりも区別を付けたがる人だから
ムカつくような気持ちはひしひしと感じ取れる


「....なら俺が行くからもう一人

「いいよ、私が行く」


ほら
その"何を言ってるんだ"とでも言いたそうな目
唐之杜さんの言う通り分かりやすいんだと思うよ


「もうこの仕事も半年くらいやって来たし、私もそろそろ現場に出たい」

「....」

「だそうですよ、宜野座さん」






















「絶対に単独行動はしないで下さい。古い建物ですので足場が悪い可能性があります。」

「え

「何か気付いたり発見した場合も、先走らずにまずは自分か霜月監視官に言って下さい。」

「待っ

「それからどんな物も安全が確認出来るまでは触ら

「ちょっと待って下さい!ストップストップ!....それは夫からの伝言ですか?」

「宜野座執行官に任された本日の自分の任務です。約束をした以上必ず


溜息と共にその声を脳内で遮断する

もう....

犯罪者を追いかけてる訳じゃないんだから
それに真面目に付き合う須郷さんも面倒な事は断ればいいのに





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