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「じゃあ皆お疲れ様」

「お疲れ名前。お兄ちゃんと一緒に帰るんでしょ?」

「あはは...交通費浮くしね...」

「全く羨ましいわ、眼鏡様の助手席座れるなんて」


結局同僚の子達は、私が監視官と付き合ってない事で逆に利用価値があると、全く諦めてはいない

かといって、刑事課に突撃するとか非常識なこともしない
だから私も友達としてこの子達と一緒にいられてる


「じゃあ運転してる姿、写真撮るよ。それを明日見せてあげる」

「本当!?約束よ!」






























佐々山さんも狡噛さんも居なくなった刑事課一係のオフィス


「おー、名前じゃないか。お疲れさん」

「お父さんこそ」


寂しさが残る、佐々山さんが使ってたチェアを借りて座る


「伸元は今分析室だよ、10分もすれば戻ってくる」

「分かった、ここで待ってる」


お父さんの左腕は血が通ってない
いつでも冷たくて硬い


「その、伸元とは平気か?」

「平気、って?」

「名前はコウが好きだったんだろ?」

「わああああ!!」



お父さんの爆弾発言に急いで大声を被せる
だってここには六合塚さんも...




「大丈夫ですよ、私も知ってます」

「....な、なんで....」

「佐々山はコウか伸元のどちらかだと読んでいたみたいだが、俺は名前の事は赤ん坊の頃から知ってるからな」

「私は女の勘です」

「本当に分かってなかったのはコウだけだろう」



気付かれていたなんて、恥ずかし過ぎる



「そ、それで伸兄と平気かって言うのは.....?」



ここまで来ると、まさかあの夜の事までお父さんにバレてるのではないかとドキドキする



「コウがあんな事になって名前はもちろんショックだっただろう。名前は知らないと思うが、伸元の奴つい最近までずっとカリカリしてたんだ。精神を病んだ二人が家で衝突してないかと思ってな」


....まぁある意味衝突はしたけれど


「1週間くらい前を境に、急に元に戻りましたよね。」


六合塚さんの証言にハラハラする


「志恩は、誰かに欲を吐き出

「ああああああ!!」


唐之社さん恐るべし
確かに色事には詳しそうだったけど


「.....あぁ、納得しました」

「え、ちょっと六合塚さん勘違いです!」

「まさか名前....」

「お父さん、違うよ!」


刑事課にはプライバシーという物が無いのか

その瞬間自動ドアの開く音に、皆そちらに集中する





「騒がしいぞ、何事だ」

「あ、いや...」

「久々に娘と話せて嬉しい親心の現れだよ。許してくれよ、監視官」


まるで何事もなかったかのように音楽を聴く六合塚さんに胸を撫で下ろす



....のも束の間

真っ直ぐ目の前に伸びてくる手



「え!ちょっと!」



その手は私のブラウスの襟と首の境目を割って入ってきた



「.....もう消えたか」

「なっ!」



人の前でこんな堂々とだなんて、何を考えてるの!?
....と焦っているのは私だけのようで、当の伸兄は顔色一つ変えてない様子に余計恥ずかしくなる




「帰るぞ。征陸と六合塚ももう宿舎に戻れ」

「はい、お疲れ様でした」

「名前、また今度詳しく聞かせてくれよ」


自然と溜息が出た








































カシャッ

「な、なんだ!」

ちょっと暗過ぎるかな
車内灯を一つ付けて再びピントを合わせる


カシャッ

「名前!」

「聞かなくったって明らかでしょ?写真撮ったの」

「何のためだ!」

「今日同僚の子達と約束したの」


写真を確認してから灯を消す


「何をだ!」

「前に言ったでしょ、伸兄は女の子達に人気だって」

「....だからと言って勝手に撮るな!」

「見せるだけ!送ったりしないから」




拡散や漏洩を心配している以前に、個人的にそれは嫌だから
....同僚の子達の待ち受け急に同じ画像とかになったら

さすがにそれは色んな意味で見たくない






「今お仕事大変?」

「当たり前だ、二人も欠員したんだ」



もう狡噛さんは“狡噛監視官”呼ばれる事はない
狡噛慎也「元」監視官

もうあれから1ヶ月近い
私も気軽に思い出せるようになってきた
このまま....忘れられていくのだろうか



「執行官はそのうち補充されるが、監視官は厳しいだろうな。一年に一人入って来れば良い方だ」



それほど就くのが難しい職なのに、危険と隣り合わせで簡単に失ってしまう職

10年続けられれば厚生省のポストが用意されるらしいけど、そんな人はそうそう居ない

実際伸兄だってどうなるか分からない



「....気をつけてね」

「....言われなくても分かっている」





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