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「あらかわいい!捜査資料で見た写真よりずっと元気になったじゃない!」
「そうなんです!ご飯もダイムのを奪おうとするくらいで」
「あはは!そっちは部屋に植物も多いから、もう公安局の執行官宿舎だとは思えない雰囲気でしょうね」
確かにかなり賑やかになった
ダイムは元からそんなに騒がしいタイプじゃないし、伸兄もいつも張り切ってる感じでも無い
その中で子猫の鳴き声とそれに翻弄される伸兄のドタバタが、私としては日常をより鮮やかにしてくれている
「名前は?」
「それがまだ付けてなくて....伸兄が、離れる時に辛くなるから付けるなって言うんです」
「まぁそれも一理あるけどねぇ....じゃあずっと"猫ちゃん"って呼んでるの?」
「はい、可哀想だとは思うんですけど....」
「1ヶ月後にはお別れだものね....引き受け手が見つからなければ、なんて考えちゃうわね」
何度も抱き抱えようとする唐之杜さんの腕を抜けてわたしの元に戻ってくる
タバコの匂いが嫌なのかな
それとも....猫は犬ほど人に懐かないって聞いたのに
「そういえば朱ちゃんのお友達の結婚式、皆行く事になったの知ってる?」
「え!?そうなんですか!?」
「私とそれから一係の皆ね。執行官じゃなくて公安局職員の同僚って事にしてあるそうよ。相変わらず朱ちゃんたら太っ腹よね?」
「で、でも大丈夫なんですか?私達は新郎新婦とは全くの他人なのに....」
「場所がレストランなのは知ってるでしょ?」
「はい」
「元々親族や友人、お世話になった人しか呼んでないみたいでね。席数はかなり余ってるし、厚生省の職員と来たら恩を売っておきたい対象じゃない?"厚生省職員が美味しいと認めたレストラン!"、客足が増えるってね。だからSNSで広めて欲しいって」
「でも私達は同じ厚生省職員でも実際は執行官ですよ?口コミなんて....」
「あらあら、私を誰だと思ってるのかしら?」
「あ....」
「ミャー!」
私の膝の上で大人しく伏せる猫
それ以来携帯サイズのコロコロを持ち歩くようになった
時にはオフィスに連れて行ったりもして、その可愛さから皆の仕事の邪魔になったり
時には休憩に出ていた人が戻って来ると、とんでもない報告書が出来上がっていたり
1週間しか経っていないけど既に刑事課の中心的存在になってる
「名前ちゃんもうドレスは決まった?」
「いえ、まだこれから購入しようかと思っています」
「なら一緒に選びましょうよ!」
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「これか、これかこれか、あーあと、これ。どれがいいと思う?」
「....どうしてどれもこれも派手なんだ」
「え、派手!?これで?」
「丈も短い」
「膝まで隠れるよ!」
左側には膝の上に猫を乗せて同じ画面を見る妻と、右側には見守るように寄り添う飼い犬
すっかり春になった夜は、それだけで外の空気が綺麗に見える
「ふくらはぎ以上の長さにしろ、それから肌が透けて見えるレースは無しだ」
「そんな....」
"これ結構気に入ってたのに"と項垂れるも、こんな格好で披露宴など行かせられるわけがない
聞こえは良くても結局は出会いの場だ
皆が皆着飾り、主役は自分ではないと分かりつつも良く見られたいと必死になる場所
同窓会になり得たり、新たな人間関係も生まれる
元々外食をしたいが為だけの外出だったんだ
本来の趣旨に添い、新郎新婦を引き立たせ目立たなくいるべきだ
「じゃあこれは?」
「だからふくらはぎまで隠せと言っただろ」
「んもう!せっかくパーティーなんだから可愛くしたっていいじゃん!」
「ダメなものはダメだ」
「....いいよ、そんなに言うなら伸兄が選んで。昔からセンスは悪くないし。その代わりプロのメイクさん呼ぶから」
「そんなもの呼んでどうするんだ、化粧くらい最近自分でやっているんじゃないのか?」
「だから勉強したいの!当日髪もメイクもやって貰ってそこで勉強する」
「....だいたい潜在犯でどうやって呼ぶつ
「唐之杜さんが予約散ってくれるって。共同エリアでやればこっちが潜在犯かどうか分かんないし」
「はぁ....分かった、好きにし、っ、おい!」
「やったー!ありがとう!」
と突然飛び付くように腕を回され、その反動で横に倒れる
それを察知してかダイムはいつの間にかソファの下
「まさかお前最初から!」
「唐之杜さんの案だから!プロのメイクさん二人分予約するの結構お金かかるの。こうすれば3人で割り勘になるでしょ?」
「....全く....ならそう言えばいいだろ」
「絶対必要無いって言うじゃん!"代わりに"って口実を作らないとすんなりとは認めてくれないって」
言い返す言葉が無い程に正確な図星
思わず溜息が出る
気付かなかった自分にも問題はあるが、金で笑顔が見れる甘やかしなど安い物だと言う思考に飲み込まれていく
「でもあのドレス気に入ってたのは本当だよ、嘘じゃない」
「それでもダメだ、今言えば許可されると思うな」
「ケチ」