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午前中の研修で一緒になった女の子5人で、食堂でお昼ご飯を食べる事になった



今日は朝からすっごく楽しい!


伸兄と狡噛さんが働く公安局ビル
私もついにここの一員!


見るもの全てが新鮮でもあり、親近感もあった




家を出る前、伸兄には質問責めされた
『名前、初日だし送ろうか』
『えっ、いいよ!自分で行ける!』
『....お前、いい加減教えろ。どこに就職した』
『だから秘密って言ったでしょ!』
『芸能関係か』
『違うし言わないってば!』
『医療系か?』
『もう!遅刻したくないから行くね!バイバイ!』
『待て!名前!....おい!』


....伸兄の荒ぶる声を背に、逃げる様に家を出た






まさか公安局に就職したとは思ってないだろう

監視官はダメだったけど、事務職の人事課に適性が出た
刑事課の人事は公安局局長が担っているから、そこは私達の担当範囲外だけど

結果、刑事課と直接関わりは無い
でも同じ建物内で働ける
それだけで十分












「狙うは刑事課の男よ!」
「刑事課の前通った時にちゃんと観察してきた!」

やっぱり女子が集るとこういう話題だ
それにしても刑事課が人気なのは正直嬉しい
公安局内でも花形の刑事課
人数はかなり限られてる上に、他の課と接触も少ない
別に競ってるわけでも、見下してるわけでも無いけど、監視官2人と知り合いなんて少し優越感を感じてしまう
逆に面倒ごとにも巻き込まれたく無いから、他人には何も言わないでおこう

「名字さんは?彼氏とかいるの?」
「えっ」

気付けば一人ずつ恋愛事情を公開しているところだった
こんな誰に聞かれてもおかしくないところで、皆彼氏いない宣言をしているのだ
わざわざそんな事をするのもどうかと思うが、初日から嫌われるのは頂けない


「いるわけないよー、でも分かる!刑事課の人たちは憧れだよね」

「やっぱり?絶対私が1番最初に刑事課彼氏作るんだから」


....うわこの子ずいぶん自信あるんだな..
まぁ確かに可愛いし本当に彼氏いないのか不思議

もうこれは仲良しこよしの女の子グループじゃない
自分が上手だと知らしめるための女の戦い
こういう時はひたすら謙虚に、他人を持ち上げておけばいい

「みんな可愛いから、私なんか無

「ねぇちょっと!あの人....」

「うそ!まじ!?」


向かいに座る3人がソワソワし始める


「どうし


たの?と聞こうとしたのを、聴き慣れた声が遮る


.....うそ、まさか、ちょっと待って、いやいや、今!?
ダメダメダメ
落ち着きたいのに出来ない





「お食事中すみません、右側の空いてる席使っても.....」



振り向いちゃダメだと思ったのに
反射とはどうしようもできない体の不思議の一つ





確かに今日公安局で出会って驚かせようと思ってたけど
こんな、表は笑顔でも内には敵意しか秘めてない人達の前でじゃない



でももうその顔を瞳に捉えてしまった





「......名前....!?....なんでここに」

「ぁ...いや....人違いじゃ

「なに!名前だと!」

「えっ、ちょっと待っ

「どういうことだ名前!なぜお前が公安局にいる!」

「な、なんの話ですか!人違いです!」



お願いだからそういう事にして!
そう目で必死に訴えてみる



「何を言っている!10年以上一緒に居て見間違えるわ

「ギノ」




狡噛さん....気づいてくれた?



「すみません、人違いでした。知ってる人によく似ていたもので」

「なっ!狡噛!?」


まだ引き下がらない伸兄
本当気が利かない


「なになに、どうしたんだよ!.....ってあれ?あの子ギノ先生の....」

「佐々山は少し黙っててくれ。....大変失礼しました。今年から公安局に入局した新任の方ですね。どちらの課ですか?」


そう佐々山さんと呼ばれる男性を制して、改めて私に向かい直した狡噛さんは、わざとらしくよそよそしい


「じ、人事課です....」


そう答えると、伸兄が眉をしかめたのが見えた


「そうですか、我々は刑事課の者です。同じ局の職員として共に頑張っていきましょう。こちらの空いてる席、いいですか?」

「どうぞ...」







女子達がザワザワしている

「....名字さん、下の名前名前さんじゃなかったっけ....?」


痛いところを突かれる
でもそれくらい

「同じ名前の人なんて沢山いるでしょ、私本当にあの人たち知らないし!」

「.....そうだね」

誤魔化し切れてなかったらどうしようと思いつつ、証拠もないし何も言って来れないだろうと高を括る







1番内側に座っていた私の隣には、狡噛さんが座った

肩が触れそうで触れない距離が、とてもじゃないけど落ち着かない

ちらっと自分の右側を見てみても、狡噛さんはさらにその右側を向いていて、佐々山さんと呼ばれた男性と会話をしている様だった




こちらを見向きもしない様子は、まるで本当に赤の他人だ

せっかく会えたのにこれは少し寂しいけど、私の意図を汲んでくれたのは感謝している







.....ん?
右側の腰に何か当たってる様な気がする

当の狡噛さんを見てみても、相変わらず反対側に向いてるし、実際自分の腰に視線を落としてみると、狡噛さんが携帯端末のディスプレイを開いていた


....何か書いてあるし、読めってこと?






“仕事上がったら刑事課に来い。ギノも心配してる”








はぁ...私怒られるのかな...

あんなに今日が楽しみだったのに





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