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退勤直後に鳴り響いたデバイス

『青柳!頼みがある』
『何?今帰ろうとしてたところなんだけど。そっち新潟でしょ?』
『俺の家分かるな?』
『え?分かる訳ないでしょ』
『唐之社に聞いてくれ。一係が戻るまでの間、名前の面倒を頼む』
『名前ちゃんもう社会人よ?そこまでしなくても』
『仕事に支障を来さない程度で良い....もう戻る、頼んだぞ!』


通話は一方的に切られ、仕方なく私は分析室に向かった


『宜野座監視官の住所、調べて欲しいんだけど』
『どういう事?一係なら新潟に行っちゃったじゃない』
『可愛い妹の世話を頼まれたのよ』
『あぁ、なるほど。でも監視官の個人情報なんて...』
『一応私も監視官よ。監視官権限を使うわ』
『了解』

するとすぐに、顔写真と共に生年月日等も記されたファイルが開かれた
その中から住所を見つけてデバイスにメモをしようとした途端、新着メッセージの通知がなった
送り主はまたもやあの眼鏡監視官

『あそうだ、あの子、名前ちゃんに会うなら忠告しておくけど
『狡噛慎也の話題は出すな、って?』
『あら、二係も知ってるの?』
『今そうメッセージで送られてきたのよ。でもどうして?何かあったの?』
『はぁ...簡単に言えば好き合ってるのに、嫌われてるとお互い思ってるのよ』
『....よく分からないけど、なるほど』







....って話を聞いたもんだから、少し難しい子なのかと思ってたわ

確かに最初はちょっと警戒されてたみたいだけど、それも今は改善されたし、特に恋に悩んでる様子も無い



「えっと...青柳さん帰らないんですか?」

「私は泊まろうとしてたわよ。このソファでいいから」

「そんなダメですよ!どうせ帰って来ないんですから、伸兄の部屋をどうぞ」

「私を男の部屋で寝させる気?」

「あっ!いや、じゃあ、私がそっちで寝ますので、青柳さんが私の部屋で寝ますか?」

「ふふ、ありがとう」






本当に至って普通の女の子

そんな子が、あの狡噛慎也と実は両思いなんてね...
まぁ執行官に降格した際に、何かすれ違っちゃったんでしょうね...







































お風呂上がりに名前ちゃんの部屋に案内される

シンプルでよく片付いた部屋だった
机の上には3枚の写真

「ああ、恥ずかしいからそんなに見ないで下さい!」


一つは小さな女の子と男の子、それから一係の征陸執行官
二つ目は、学生服に身を包んだ名前ちゃんと宜野座君
三枚目は、別の学生服の名前ちゃんと、現一係監視官と元一係監視官


「お兄ちゃんやっぱり眼鏡無い方がカッコいいわよね?」

「え、あぁ、私もそう思って本人に言ったんですけど、色相の維持だとか、潜在犯である父親に似てる目元が嫌いだとかで」

「やっぱり面倒な男ね」



ベッドに座ってみると比較的柔らかめのマットレスだと分かった
それが名前ちゃんの好みなのか、それともあの真面目な監視官の好みなのか



「名前ちゃん、本当にいいの?」


クローゼットから着替えを取り出す背中に問いかける


「何がですか?」

「いくら家族同然とは言え、血の繋がりもない男の部屋で寝るなんて、嫌じゃない?」

「いえ、慣れてま...はッ!」


慌てて持っていた着替えで口を抑える様子を、私も見つめる



「....今、“慣れてますから”って言おうとしたわよね...?」

「いや!その....」


顔を真っ赤にする姿が全てを語っていた


「.....これは驚きだわ....そういう事からは最も遠い位置にいる男だと思ってたのに....」

「....えっと....」

「もう察したから隠そうとしても遅いわよ。でもどうせ動いてくれないタイプでしょ?全部女の子に任せて自分は寝転がってるだけな男じゃない?」


私の生々し過ぎる質問にさらに赤くなる名前ちゃん


「......そ、そんなイメージ、ですか....?」

「まさか攻め立ててくるタイプ!?あのメガネが!?」

「も、もう私部屋に戻ります!おやすみな

「ちょっと待って!私の話も聞かせてあげるから、詳しく教えて!」

「無理ですよ!私じゃなくて伸兄に

「私執行官と付き合ってるの」





私の言葉にドアノブにかけた手を止める名前ちゃん





「....監視官である青柳さんが、執行官と....ですか?」






ごめんね宜野座君







「そうよ、神月凌吾執行官。顔は見たことあるんじゃない?」





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