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「確か....麻雀の....?」

「あぁ、やってるわね麻雀」

「で、でも執行官と付き合うなんて....」

「別に違法じゃないわよ、ただ潜在犯は色々と制限があるから難しい事が多くて現実的じゃないって言われてる」

「....色相は?濁りませんか?」

「愛で濁らないわよ」


監視官と執行官の交際なんて、伸兄だったら発狂しそうな話だ
それでも私には身に覚えのある話で


「....でもどうして私にその話をしてくれるんですか?」


そう聞くと肩を竦める青柳さん


「それは....名前ちゃん自身が1番よく分かってるんじゃない?」


その言葉に私は息を吐いた


「何でもお見通しって事ですか」

「まぁ...そういう訳じゃないんだけどね。聞かせてくれる?」


今日初めて会話したのに
包容力のある雰囲気に私はチェアを引いてそこに腰を下ろした


「....本当に聞きたいですか?」

「もっと人を頼ってもいいのよ」


そう優しく微笑みかけられると、押し込めていたものが溢れてくる


「....狡噛さんとは、高校の時に知り合いました」









それから私は、

狡噛さんを好きになった事

狡噛さんと同じ監視官を目指したがシビュラから適性が出なかった事

それでも出来るだけ近くに居たくて公安局に就職した事

付き合うとか、好きになって欲しいとか多くは求めてない事

潜在犯になる前に、嫌いになれとキスをされた事

それで少し希望を持ったが、もう会えないと思って忘れようとした事

良い思い出になりかけてた所で、狡噛さんが執行官として戻ってきた事

その直後から冷たくあしらわれ悲しかった事

私は狡噛さんにとってその他大勢と変わらない位置付けにあると知った事

それでも消えない気持ちを手放したくて、狡噛さんを避けている事


全てを話し終える頃には無意識に涙が流れていた



「よく話してくれたわ、ありがとう」

「いえ...私は....」


そういって優しく抱きしめてくれる温もりに、覚えても居ない母親を思い出す

女の人に抱き締められるなんてもういつ以来だろうか



「でも名前ちゃん、狡噛君から直接どう思ってるか聞いた事ある?」

「....無いです...でも

「冷たくされて悲しいのは分かるわ。でもそれは今、狡噛君も同じかもしれないわよ」

「そんな事...」

「そんな事無いってどうして言えるの?」

「まず最初に避けてきたのは狡噛さんですし...」

「それも、何か名前ちゃんに対して思う事があるからよ。何も思ってなければそれこそ何もしないでしょ?その何かが“嫌い”とは限らないわ」

「....今更どうしたって....」

「あなたは間違った事なんかしてないわ、嫌われる心当たりでもあるの?....まぁその辛い気持ちへの対処法はちょっと問題あるけど、それだけに依存してちゃダメよ」

「私そんな事一言も...」

「分かるわよ。人間辛い時は人肌が恋しくなるものよ。それで名前ちゃんの心を支えているならば、お兄ちゃんも本望よ。今どうせ罪悪感感じてたでしょ」

「....うっ...」


ここまで全て見破られるとさすがにもう何も隠す気は無くなる


「いちいち自分を悪者にしてたらキリがないわよ。あのメガネも結構物言う男だし、本当に嫌だったら拒否してるわよ。まぁ拒否するべき立場にある気はするけどね...」

「す、すみません....」

「あなたが謝ってどうするのよ。とにかく私が言いたいのは、そう全てを決めつけないで希望を持ってもいいのよ」



その言葉に、完全とは言わないものの少し胸の突っかかりが取れた気がした

もう一度狡噛さんとちゃんと話してみよう

せめて前みたいな関係に戻りたい

そう思った時にはもう涙は乾いていた






「本当に、聞いてくれてありがとうございました。少しすっきりしました」

「いいのよこれくらい。こんな私で良ければいつでも話聞くわよ」

「ふふ、青柳さんが味方なら頼もしいです」

「嬉しい事言うわね。じゃあ....」



急に立ち上がる様子に驚いていると、ドアを塞ぐようにその前に立つ青柳さん



「そろそろ聞かせてもらおうかしら」

「え、もう全て話しましたけど....」

「人の弱みを握るって大事な事よ」

「....はい?」

「どう?上手いの?」

「な、何がですか?」

「んもう、あの超がつくほど真面目な監視官よ!」

「なっ!言えませんよそんな事!それに比べる対象が....」

「まぁ夜はまだまだこれからよ、じっくりガールズトークしましょ」

「ちょっと、青柳さん!私明日は仕事で

「私だって朝の当直よ。だからさっさと吐いちゃえばいいのよ」








もう逃げ場が無い





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