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「....本当にごめんね、あれ多分私のせいなのよ...」

「ど、どういう事ですか...?」


数多くのモニターの光のみが照らすソファに縮こまる
正面のチェアには、不味そうな顔をする唐之社さん



「ん....私ワザとじゃなかったのよ」

「....?はい」

「いや、あのね....今度何でもお願い一つ聞いてあげるから!」

「わ、分かりましたから、何があったんですか?」



















執拗に勿体ぶる唐之社さんは、数分の沈黙の後ついにその重い口を開いた



その内容に私はどちらかというと首を傾げた






「....言っちゃったんですか、狡噛さんに」


公式的にはつい先日話した青柳さんしか知らないはずなのに、結果として皆知ってしまっている


「ごめん!本当にごめん!」

「いや、どうして謝るんですか?」

「どうしてって...」

「確かに知られたいかと言われればもちろん隠したかったですけど、そもそもほぼ公になってたじゃないですか。....秀君は知らないかもですけど」

「....だって名前ちゃん、慎也君の事好きなんでしょ?」

「...それも話したつもり無いんですけどね....でも、はい」

「....じゃあ、慎也君に知られても良かったの?」

「知られてもいいというか....それがどうして今の状況の原因になっているんですか?」



狡噛さんはいつだって私の考えを尊重してくれた
だから、私がどこで誰と何をしたって、違法でも無い限り咎めて来るはずはない



「執行官として戻って来てから、狡噛さんはずっと冷たかったですし、そんな事狡噛さんにとってはどうでも良い事のはずじゃないですか?」

「どうでもいいって....じゃあ実はね私、この間慎也君と寝たの」



唐突な爆弾発言に脳の処理が追い付かない
今、何て...?




「ね、寝た...!?っていうのはその....」

「そうよ、肉体関係を持ったのよ。あなたと宜野座監視官と同じように」

「っ.....」



声にならない声が出た気がした
狡噛さんに伸兄との事を知られたよりも、こっちの方がずっと衝撃的だ


今度こそ正々堂々失恋した気がする



「そんな....そうですか....」

「さすが元監視官かしらね、もうすっごい良い身体してたわよ」

「なっ...」



もう顔も上手く見れない
寄りによって唐之社さんとだなんて

同じ潜在犯だから?
妖艶な身体つきをしてるから?

チラッと谷間を見てしまうと、より劣等感を感じた


....私じゃ最初から無理だったんだ









「お、お幸せに....」

「嘘よ」

「お似合いで....え!?」



嘘って、え?
もう私の思考はめちゃくちゃだ



「からかってごめんね。でも、どうでもよくなかったでしょ」

「いや、だってそれは!」

「同じよ。慎也君が名前ちゃんにとって大切であるように、慎也君もあなたが大切なのよ」

「....どうしてそんな事分かるんですか?」

「それは今名前ちゃんが身を持って体験したでしょ?」



自らの両手で頬を包むと、熱を帯びているのが分かった




「まぁ、あそこまで監視官に噛み付いてるとなると、あの二人の間で何か別であったんだと思うけど....」

「...伸兄に聞いてみます」

「それはやめといたほうがいいと思うわよ。慎也君の事もそうだけど、今の事件の事で相当ピリピリしてるから。あまり刺激しない方がいいかも」



ごもっともな意見に頭を抱える
二人の間で何があったか分からない
狡噛さんには近寄り難い
また怖い顔して突き放されてしまいそう



「名前ちゃんは、どうしたいの?」

「どう、というのは...?」

「慎也君の事よ」

「....以前の狡噛さんと同じように接したい、です」

「なら、負けちゃダメよ」

「何にですか?」

「避けられる分だけ喰らいつくのよ。逆流に乗って流されてちゃ意味が無いわ」

「でもそんな...」

「少なくとも私や執行官の皆は全員名前ちゃんの味方よ。頑張って!」



そう私の肩を掴む手から妙な程の自信を感じる






....そうよ、いちいち負けていられない






こうやって心配してくれる人がいる



それを自分の弱さで無駄になんて出来ない











「私が、必ず元の狡噛さんを連れ戻します!」

「よし!そう来なくっちゃね!お姉さんも何か手伝おうかしら」

「いえ、これは私の問題です。自分で解決して見せます!」

「....分かったわ。私達の優しい慎也君を取り戻して来て頂戴。あそうそう、慎也君が良い身体してるのは本当よ」

「し、知ってます....」

「あら!見た事あるの?」

「少し前にプールでたまたま....」

「あの眼鏡は?」

「そ、そんな事聞かないでください!」

「あの男も監視官だしね...でも鍛えてるところ見た事ないのよね」



...そういえば執行官には見られないようにしてるとか言ってたかな





「....そういえば気になってたんですけど、どうして分かったんですか?私と伸兄がその....」

「ああ!あの日の色気は凄かったわよ!弥生が嫉妬しちゃったくらいよ!でも相手がまさか名前ちゃんだとは思わなかったけどね」



....なるほど
それであの日の六合塚さんの反応だったのね...


もう少しポーカーフェイスって言うのを学んだ方が良さそう





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