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逃亡を試みた後、犯罪係数が上昇
無人倉庫にてドミネーターを以て執行


元監視官の経験則が報告書作成に活きる
キーボードを打つ度に包帯を巻いた右手が若干痛む


今朝出勤早々に鳴り響いたエリアストレス上昇警報
駆けつけた先の現場で、シビュラに従い引き金を引いた


署名をして提出が完了するとそのままオフィスを出た
本来ならば監視官に報告をするべきだが、昨日の今日でさすがに気まずさがあった


















「あら慎也君、ちょうどいいタイミングよ」

「もう届いたのか?」

「えぇ、ついさっきね」



“意外といい趣味してるのね”と呟きながら手渡された小さな箱



「すまないな、こんな事を頼んで」

「いいわよこれくらい。その代わりちゃんと仲直りしなさいよ」

「....あいつが許してくれるなら何でもしよう」

「ちょっと、聞いてるこっちが恥ずかしいわよ」

「何かおかしな事言ったか?」

「はぁ...そういうところがあなたの魅力なのかしらね」



一度中身を確認してからポケットにしまった



「まさか今から行く気?」

「そのつもりだが?」

「あの子まだ勤務中でしょ?」

「少しくらい平気だろ、それにその方が都合が良い」

「怒られても知らないわよ」

「ご心配どうも」














































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今日もコンピューターのスクリーンと睨めっこする日々

広報課が催す小学生向けの公安局ビル見学に、担当職員のシフト表、それから参加予定者の詳細リストの制作を人事課が担う事になった
そんな人事課からも数人、当日スタッフとして赴く
私もそのうちの一人だ

もう...職員だけでも相当数いるのに、参加児童のリストまで含めたら何人居ると思ってるの

しかも開催期間は1ヶ月で週に2回

出勤前までは“どうやって狡噛さんに昨日の事を謝ろう”かと考えていたのに、もうそれどころじゃない



タンブラーのハーブティーを一口含む


大きく呼吸をして再びキーボードに手をかける



私の担当は第二週
休暇申請のリストを見ては頭抱える
見学スタッフにさく人数、業務に残る人数、それを各課でバランス良くなるように組まなければならない




「名前ちゃん、」

「ちょ、ちょっと待って」



背後からした同僚の声に今出来る精一杯の返答をした



「いや、お客さんが....」

「え、お客さん?」



聞き慣れない言葉に困惑して後ろを振り返る
そこには反対に見慣れた紺色のジャケットを着込んだ人物



「あ、青柳さん...?」

「お仕事中ごめんね、少しいいかしら」

「....今、ですか?」

「忙しかったら別に大丈夫よ」



正直確かに忙しい
でも青柳さんがわざわざ人事課に来る用事の方が気になった



「いえ、行きます」



セーブボタンを押してパソコンをスリープモードにした





青柳さんの背を追ってデスクを通り抜けて行くが、刑事課のレイドジャケットが物珍しいのか多くの人の視線が突き刺さる



「ごめんね、私は仕事があるからすぐ戻らなきゃいけないんだけど」

「え?じゃあ誰が....」



私に用があるのか、と言葉を続けようと廊下に出た瞬間




目に映る男性に息をするのも忘れた





「それじゃ私はこれで」

「あぁ、すまなかったな」

「本当よ、私は二係の監視官よ。あとは自分でなんとかしなさいよ」



そんな会話を残してエレベーターホールへと青柳さんが去って行くと、人事課前の廊下に取り残される私達


「場所を移そう。この階の休憩室でいいか?」

「え、あ、はい」


予期していなかった事態に声が上ずる



























確かに普通であれば勤務中の時間、休憩室はガランとしていた

何を言わずともリンゴジュースを買ってくれたのが、まるで昨日とは別人の様だが、すごく心地の良いデジャブ


「広報課の社会科見学の件か?」

「は、はい。結構な無茶振りで....」

「勤務中で申し訳ないとは思ったんだがな。刑事課ではその....少し話しにくいだろ」

「...まぁ、そう...ですね」


伸兄の事かな、見つかったら私が怒られるのを気にしているのだろうか


「今まで本当にすまなかった」



私が言いたかった謝罪の言葉を先に言われどうしたら良いのか分からず、緊張を紛らせるようにリンゴジュースを流し込んだ





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