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俺は急いで全ての書類整理を終わらせ仕事を切り上げた

低層階まで降りて行くと多くの人が退勤し始めていた


その人の波の中で目当の人物を見つける




「やっと1週間終わったー!明日みんなで息抜きに新しく出来たカフェ行かない?」

「ああ!あの渋谷の?今話題だ...えっ!?伸兄!?ちょっ、どこ行くの!離して!」



その腕を掴んでそのままエレベーターに押し込んだ
B1のボタンを押せば自動的に閉まるドア





「いきなり何!?」

「話は帰ってからだ」

「...は?ってもう上がったの?」



ドアが開かれれば車へと向けて歩き出す



「別に逃げないから離してよ!」



車の前まで来て解放してやると、確かに助手席に乗り込んだ

シートベルトを締めたのを確認してすぐアクセルを踏んだ





















勝手に行った休憩から戻って来た狡噛

『どこへ行っていた』

『ギノ、話がある』

『俺が質問をしている!』

『....全員居るな、ちょうどいい、ここで話そう』


その言葉に他3人の執行官がこちらに注目を寄せた


『ギノ、近頃の態度を謝る』

『....なんだ突然』

『随分迷惑をかけた。本当に申し訳無かったと思っている』


昨日まであんな様子だったのに、いきなり何なんだ
狡噛の不可思議な謝罪には何か裏があると俺は考えた


『....はっきり言え、何を企んでいる』

『そうだな、単刀直入に言う。名前に俺の気持ちを伝えた』

『.....は』



狡噛の爆弾発言に昨日の決意が揺らいだ

名前に潜在犯にだけは成らない事を約束させ、その範囲内ならもう好きにさせるつもりでいた



『うっそ!コウちゃん告白したの!?』

『やるじゃないかコウ!』

『それで、彼女は了承したんですか?』



各々の反応を示す執行官



『いや、はぐらかされた』

『え、名前ちゃん絶た

『黙れ縢』

『うっわ、怖っ』


『...それをわざわざ俺に報告して何がしたい』



こうして面と向かって俺に言わなくとも、名前に会えば明確になる事だ
それにどちらかと言うと、隠したい事実ではないのか



『これは“男の問題”、だろ』


狡噛の余裕のある表情がまた、俺の理性を逆撫でした


『....宣戦布告だとでも言いたいのか』

『俺はコウちゃんに一票!』

『なんか娘を嫁に出すような気分だなぁ』

『お前らは仕事をしろ!....狡噛貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!』

『あいつが望まない事はしない。仮にこれであいつに拒絶されたならばそれまでだ。濁らせるような事はしないと約束する』






















































「はい、家着いたよ。それでどうしたの?」


リビングに入って早々説明を求める名前


「どうするつもりだ」

「どうするって?」

「とぼけるな、狡噛と話したんだろ」

「えっ、あぁ...まぁ...」


途端に恥じらいを含んだ表情に、必死に感情を押さえ込む


「狡噛さん言っちゃったの....伸兄には言わないと思ったんだけど...」

「そんなお前も俺には言わないつもりだったんだな」

「だって!....あ、いや....」

「なんだ」

「...なんでもない」

「名前!」

「だからなんでもないってば!それに、私もまだ混乱してるの!」


そう俺を押し退けようとした横顔に見覚えのあるものを見つける


「....それ、どうした」


確か昨夜唐之社が購入申請をして、今朝俺がその申請を通した物だ
それを何故今名前が身に付けている


「え?あぁ、狡噛さんが今までのお詫びにって...」



そう嬉しそうににやけるのを俺は見ていられなかった

これまで俺に一番近い存在だと思っていた名前が、急に遠く感じた

どいつもこいつも....



「...まだ何かある?無いなら...っ!ちょっと!」

「まさかあいつと付き合おう等と思っていないだろうな」

「....分かんない」

「ダメだ、絶対に許可しない!」

「....どうして!色相なら自分で管理出来る!」

「そういう問題じゃない!」

「...じゃあどういう問題?」



その質問に俺は答えが出てこなかった
....確かに色相が問題ではないのなら、俺は何を求めている




「それは....」

「....別にこれからも私はここにいるし、仕事もちゃんとする。伸兄に面倒はかけない」



俺を見上げる目は、どんなに見つめても重ならない気がした



「....ま、まぁ、まだ私もどうするか決めてないし....」

「....もういい」

「え、ちょっと待って!ねぇってば!」



スーツの裾を掴もうとしてくるのをわざと振り払った
これ以上名前を前にしていると取り返しの付かない事をしてしまいそうだった


























「...クソっ!」



自室で一人壁に拳を打ち付けても、痛み以外何も返ってはこない

運動などしていないのに呼吸が苦しくなって息が上がる


....何故だ
失うわけではないのに


濁ってしまうと分かっていながらも、底知れない無力さと孤独感に襲われる





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