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「もしかして例の合同会議!?やった!」

「それは行ってみないと分からないよ」


そう答える私の心理は、正直複雑だった
狡噛さんに会えるのは嬉しい、でもどんな顔をしたらいいのか分からない





同じくスタッフになっている人事課の同僚3人とエレベーターホールへ向かうと、そこにはもうすでに多くの人がエレベーターを待っていた

「...次のエレベーター待たなきゃだね」

「次の次かも」



結局3回目に開かれたドアに、私たちは流れに乗って乗り込んだ

39階に到着するまでの間、同じ空間に全く知らない職員も複数人いる為皆黙っていた

私もずっと現在いる階数を示す画面を眺めていた


ドアが開き、最初に乗った私たちは、他の人が降りるのを待ってから降りた


「刑事課来てるかなー...」

「それを確かめるためにも早く行こ!」

そう先導する同僚に私も後を追った









「えーー、いないじゃん刑事課!」

大会議室に足を踏み入れた私達はその全体を見回したが、刑事課がいる様子は無かった
それに明らかに落胆する3人に私は笑いが溢れた


「職員の皆さんは、自分の担当する週ごとに着席してください。スクリーンを向いて左側から第一週です。」

そう前方で繰り返しアナウンスする女性


「私第何週だっけ...」

「3だよ!」

「え、なんで名前覚えてるの?」

「第三週のシフト表作ったの私だから!」

「あ、そうなの?助かった!」


そんな私は第二週
来週からが第一週だから、一応あと2週間ある


「じゃあまた会議終わったらね!」

「よし、名前行こ」


私達4人は、第一週に1人、第二週に私を含めて2人、第三週に1人という具合だった

同じ第二週に配属されたのは、有峰奈津、私達は‘なっちゃん’って呼んでる
さっきの香水の件での子だ
人事課でもデスクは隣同士で一番よく話す子
そして生粋の“眼鏡様派”の子


席について早速また例の話題を持ち出して来た

「その香水はさ!お兄さんの好みなの?」

「....それは知らない、いつも付けてはいるけど」

「....好みじゃなきゃ買わなくない?」

「あ、あれは私があげたものだから....その前は別の物を使ってたよ。多分そっちが本当の好みだと思う」

「じゃあその前使ってたやつ覚えてないの!」

「覚えてないよ!共有する物でもないし!」

「えー、私にあんなお兄さんがいたら

「もしかして、名字さん?」

「え?」


突然名を呼ばれ振り返ると見覚えのある人物
でもなっちゃんが私の代わりにその名を口にした


「ああ!総務課に異動になった相馬君!」

「ははっ、久しぶりですね。お二人も第二週の担当ですか?」

「そうだよ!これは相馬君、運命の再会じゃん!私は応援してるよ!」

「やめて下さい有峰さん!名前さんあの...僕の事覚えてますか?」

「うん、時々お昼一緒に食べたよね」


そう答えると少し残念そうな顔をする相馬君
何か間違った事を言ったかな...


「そ、そうですね、あの時は御世話になりました」


間違ってはなかったみたい....?











「まだ始まらないのかな、会議」

「確かに、もうドアが閉まってから少し経ってるよね?」


結局あれだけ騒がれといて刑事課は来ないのか、まぁ忙しいだろうしね


















と納得したその時


再び後方で扉の音がすると、それとほぼ同時に会議室全体が騒ついた


「....うそ!刑事課!」


興奮するなっちゃんを横に、私は感情を保とうとした



「お忙しい所ありがとうございます。刑事課の皆さんは前の席へお願いします」

そう司会の女性が告げると、一係監視官である伸兄を先頭に、一段一段と私達の横の通路を降りて来る


私を見向きもしなかった伸兄は、さっきまで現場に出ていたのかレイドジャケットを着ていた


「名前ちゃん!コウちゃんとどうす

「公共の場だぞ、縢」

そんなやりとりに、つい狡噛さんと目があった
自分の耳元を指差した狡噛さんの意図が分かってしまった瞬間、全身の熱が頬に移った気がした


そこで隣には同僚が居ることを思い出し横を向いたが、

「....かっこいい....私も眼鏡かけようかな....」

全くバレて居なかった事に安心した






「スクリーン前の席が空いて居たのは、この為だったんですね」

後ろから相馬君が言った通り、私達担当職員とは向かい合う形で、一列に刑事課が着席した








「では、時間になりましたので合同会議を始めます。本日は私、広報課浅川が司会を担当させていただきます。」


まず最初に、突然の召集で申し訳なかった事
その理由がなかなか全員揃わない刑事課が、たまたま今朝だったからという事
この企画全体の責任者からの挨拶



そして女性職員の注目を集めたのが、刑事課からの挨拶だった

監視官同士がお互いを見合わせているのから察するに、事前に決めてなかったんだろう

30秒ほどの沈黙の中、決め手となったのは青柳さんの“あなた一係なんだから”と言う言葉だった


.....マイク通してないけど聞こえてますよ





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