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渋々立ち上がった伸兄は表には出していないものの、夜勤明けの為か疲れているのが私には分かった

...ほんと昨日の昼間どこ行ってたんだろう


「....刑事課一係所属監視官、宜野座伸元です。刑事課を代表させていただきます。皆さんお忙しい所、我々の都合にお付き合い下さいましてありがとうございます。1ヶ月という短い間ですが、お集まり頂いた全ての職員と協力し合えたらと思います。宜しくお願いします。以上です」



....何か機嫌悪い?
疲れてるから?


「名前!私目合った気がする!」

「よ、良かったね...」


私だってずっと見てた
でもそれが交わる事はなかった


「そういえば名前‘のぶちか’って言うんだね!」

「あれ?知らなかったっけ?」

「言われてみれば名前に聞いた事無かった。名前はなんて呼んでるの?」

「小さい時からの名残で、伸兄って」

「その絶妙なお兄ちゃん感良い!」

「そ、そう...?」


なんだ、絶妙なお兄ちゃん感って


「じゃあ逆になんて呼ばれてるの?」

「普通に、名前って。他になくない?」

「下の名前で呼び捨て....!羨ましい....」


....狡噛さんからも最初からそう呼ばれてたから、そこに意識した事無かったな

そんな狡噛さんは、テーブルの上の資料を真剣に読んでいた
その表情もかっこいいと思える私は、なっちゃんの事をとやかく言える資格は無いかもしれない




「では当日の詳細についてお話しします。
見学は週に二日、4週間にわたって開催されます。
各日午前と午後に分かれ、それぞれ2グループを同時進行で案内します。
混雑を避ける為見学ルートは2つ用意しました。
同一の場所に同一の時間帯で複数のグループが居合わせる事はありません。
しかし例外として刑事課フロアは2グループ同時に見学を行いますが、行動は別ですのでそれぞれに監視官1名ずつの同行をお願いします。
担当監視官についてですが、刑事課長からの申請により、当日朝に決定し顔合わせを行います。
詳細はスクリーン又は資料をご確認ください。
質問のある方は挙手でお願いします。」


....すごい
土曜日にカフェで聞いた話は本当だった

刑事課フロアは見学ルートにおけるごく一部でしかないが、そこに裂かれる時間は全体の30%にも登りかなり大きい
それを共にするパートナーがその日まで分からないなんて、仕方ないにしても心臓に悪い


そんな事を考えていると目の前で手が上がった

「どうぞ」

「各グループに児童は何人ですか?」

「10から15人です。他に質問はありますか?」


こういう時、本当にその時が来ないと質問はなかなか出ない


と思って間も無く


「はーい!」

「どうぞ」

「ガキ達が来るのって何回?」

「っ!縢!....失礼しました。監視官としてお詫びを申し上げます」


秀くんの発言に、すかさず伸兄が頭を下げる

秀くん...
さっき司会の人が全部説明してたよ...

“人の話を聞け”と伸兄に怒られても、“なんか難しくてよく分かんねーよ”と跳ね返す秀くんはいつも通りだ





「....では、他に質問はありますか?無いようでしたら次へ進ませていただきます」








その後は各フロアで行われる事、緊急時の対応、業務外勤務に関する手当等の説明が行われた


「それでは刑事課の皆さんありがとうございました。ご自由にご退室下さい。職員の皆さんは現在担当週毎に着席されていると思いますが、各自顔合わせを行ってください」


その指示に、最前列にいた私となっちゃんは後ろを向いた

「お二人とも第二週の1日目ですよね?」

「そうみたい、相馬君も?」

「はい、僕ともう1人、同じく総務課の奴がいるんですけど今日休みなんです」


確かに午前午後と各2グループずつだから4人いるはずだ


「そっか、とりあえず連絡先交換し...」


そうデバイスを開いた瞬間メッセージ受信の着信音が鳴った
送り主はまだ背後の刑事課席に居るはずの監視官


“今日は遅くまで帰らないからダイムの世話を頼む。俺を待たないで早く寝ろ”

やっぱり土曜の夜運んでくれたのは、
とメッセージを読み終わり顔を上げると、ちょうど通路の段差を一係が登っていくところだった


「ごめん!ちょっと!」

「え、名前ちゃん!?」

その先頭を進む背中に追い付こうと、私は秀くんを押し退けて紺色のジャケットに手を伸ばした
スーツとは違った感触を掴めば、こちらを振り返る視線
段差のおかげでそれはより遠かった


「せっかく人が文面で送った意味を分かっているのか」

「そ、そうだけど....遅くまで帰って来ないってどういう事?これから夜勤明けで帰るんじゃないの?」

「どこに行こうが俺の勝手だろ」

「昨日も家にいなかったじゃん!どうして何も教えてくれないの?」

「...お前には関係ないと言ったはずだ」

「....おいギノ、どういう事だ」

「執行官は口を挟むな」

「監視官、後ろが詰まっています」


六合塚さんの言葉を合図に、手からするりと布地が抜けて行く





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