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「ギノさーん、報告書のチェックお願いし

「自分でチェックしろ!何故未だに報告書一枚ちゃんと書けない!」

「....ちょ、ギノさんマジギレ....?」

「うるさい!無駄口叩いてる暇があったら仕事しろ!」












「....なんすか?あれ」


俺は異様な空気に、征陸のとっつぁんに耳打ちで質問した

「ありゃ....失恋だな」

「え、失恋!?じゃあもしかして名前ちゃん....」


そう思ってコウちゃんに視線を移した


「....はぁ、俺を見るな」

「あ痛っ!」


ファイルで頭を叩かれて、結局どっちなのか分からない
そんな俺の気持ちをとっつぁんが代弁してくれた


「どうなんだ?コウ。あんなに荒れた伸元は久々に見たぞ」

「おい!聞こえなかったのか!仕事をしろ!」



デスクから怒号を飛ばす監視官に振り向く



「....なぁ、監視官。少し落ち着かんか」

「....クソッ」

「え、どこ行くんすかギノさん!」

「いちいち執行官に言う義務は無い!」




そう捨て台詞のように吐き捨てて、オフィスから出て行った





「....全く、伸元のやつは....」

「私、見てきましょうか」

「うわ、クニっち勇気あるねぇ」

「私達の唯一の飼い主よ。いつまでもあんな様子じゃ困るのは私達よ」

「じゃあ俺も行こうかな。とっつぁんとコウちゃんはどうすんの?」

「コウ、名前は部屋か?」

「....とっつぁんには敵わないな」























「どこに居るか見当ついてんの?」

クニっちと一緒にオフィスを出た俺達はギノさんを探す組だ


「休憩室でしょ、それ以外あり得ないわ」

「まぁ確かに。クニっちは何があったんだと思う?」

「....名前さんを狡噛に取られたんでしょ。あんたは?」

「うーん....なんかもっとありそうじゃね?」


ギノさんの荒れ狂った様子からして、もっと深刻な事があったとなんとなく思った

そんな事を言っているうちにすぐに休憩室に着いた




「.....違ぇーじゃん」


ガラス張りのその部屋には誰もいない


「どこ見てんのよ、もう少し視野を広げたら?ベランダよ」

「....あ本当だ」


奥に目を向けると、ベランダのフェンス前に立つ背中

もはやトレードマークみたいなメガネを外し、フェンスの上に組んだ腕に顔を突っ伏したのが見えた






「.....もしかして、宜野座監視官泣いてる....?」

「え!ウソ!?」


クニっちの驚くべき発言に、俺もその背中をよく観察した

....確かに肩を揺らす様子が泣いているように見えた

あのガミガミメガネが泣くなんて、イメージ壊れすぎ



「....まじかよ、明日雪でも降りそうだな」

「失礼よ」

「だってあの監視官様だよ?!泣く!?」

「あの人だって人間よ」

「いや、そうだけどさ....そうじゃないじゃん!」

「それ程辛いんでしょ。私達に出来る事は無いわ、そっとしておいてあげましょ」































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「なぁコウ、名前を抱いたのか?」

「....とっつぁん、そんなど直球な質問は無しだろ」

「あの名前がな....あんなに小さくて可愛らしかった名前がもう男を2人も経験してるとはな....父親としては複雑な気持ちだよ」

「実の息子と身体を重ねた時点でそうは思わなかったのか?」

「伸元は正直少し予想していたんだ。あいつは俺が潜在犯になった頃から名前への執着が強かったからな。」


とっつぁんが名前と話をしたいと、俺の部屋に向かう最中

名前とギノを幼少期から知るとっつぁんの話は、今の俺には受け取り辛い話題だった


「やはり自分の子が可愛いってのは本当で、伸元を擁護するみたいになるんだが、あいつの気持ちも分からなくはない。ほぼ同時に両親を失って、側には名前しか残らなかった。お前も知ってるだろうが、あいつにとってはトラウマだ。.....全部俺のせいだ、あの時の事は償っても償いきれん」


50Fでエレベーターのドアが開く


「そんな伸元だ。何があってもどんな手を使ってでも、名前を濁らせずに側に置いておきたいはずだ。だからこそ、名前からコウの事が好きだと告げられた時は苦しかっただろうなぁ。」

「名前が自分でギノに言ったのか?」

「ああ、高校の時だそうだぞ。だが反対されたと名前本人が言っていた」

「こ、高校の時から?」


そんな時から想われていたのかと嬉しく思う俺は不謹慎だろうか


「なぁ、コウ。あの二人はどっちも俺の子みたいなもんだ。どっちの肩を持つべきだと思う」

「本当に俺に聞くのか、とっつぁん」

「ハハ、お前は絶対に名前だと言うわな。伸元は....いよいよ本当に一人か....。何、心配するな。名前に伸元の元に戻れなんて言わないさ。名前はコウが好きなんだからな。」



部屋の前まで来て、ロックを解除しようとする俺の肩に手が置かれる



「とっつぁん....?」

「その代わりコウ、絶対に名前を離すなよ。あいつを一人にしたら、伸元以前に俺が許さんぞ」

「言われなくとも分かってるさ。もはやとっつぁんじゃなくてお義父さんだな」





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