▼ 60

「はーい、みんなお姉さんに着いてきてね!」


子供は可愛い
でもこの人数になると少し面倒に感じてしまう
勝手に見て回ってしまう子や、なかなか話を聞いてくれない子



「ここが私達が会議する場所だよ」

「お姉さーん」

「何かな?」

「お姉さんは刑事さん?」

「....ごめんね、私は刑事じゃないの。もう少しで本物の刑事さんに会えるからね?」

「いつ?」

「...えぇっと、次!この次!」


本当はもう一つ会議室と、休憩室を回る予定だけど、もうそんなの見に行っても仕方ない






それくらいバレなきゃ大丈夫かなと、エレベーターに子供達を乗らせる

全員乗り込んだのを確認してからキープしていた「開」ボタンを離す

41Fを押してすぐ、また質問を投げられる


「お姉さんは何歳?」

「....お、女の人に歳を聞いちゃダメだよ!」


まともな質問は無いのかと苦笑いをする


「公安局について質問はあるかな?」

「うーん....」

「プールはあるの?」

「うん、69階に温水プールがあるよ!」

「すごーい!」

「あとでちゃんと見に行くからね!みんな楽しみにしててね。その前に....」


目的階に着いて開ける視界


「みんなお待たせ、ここが刑事課フロアだよ」

「わーい!」


子供達が降りてから最後にエレベーターを出ると、見知った声に名前を呼ばれた




「あ、名字さん」

「相馬君?早いね?」

「あはは、子供達があまり他の所に興味無かったので...」

「あー、こっちもそうだよ....」

「お姉さん!刑事さんどこー?」

「もうすぐ来るからね!みんな離れないでね!」


その様子に相馬君とお互い困った顔で見合わせる
エレベーターホールで興味津々にキョロキョロする20人程の小学生
シリアスな雰囲気の刑事課フロアには似つかない空気だ




「....あの、名字さん」

「うん?」

「僕、実は....その...」


口籠る相馬君の次の言葉を私は黙って待った


「一度あなたに...えぇっと告白を....」

「告白?なんの?」

「それはもちろんその....僕が名字さんを

「取り込み中悪いが仕事をしてもらおう」


レイドジャケットを着込んだ二人の監視官の登場で、子供達の歓声に包まれる



「....すみません、宜野座監視官....」


そう軽く頭を下げる相馬君は、緊張しているようだった



「じゃあこの総務課君のグループは僕が貰うよー。このお兄さんに着いてきたのはどの子達かな?」

「はーい!」

相馬君のグループについたのは、確か三係の監視官

それを見送って、私は自分の担当する子供達に向き直った


「それじゃあ皆、これからはこの眼鏡のお兄さんの言う事を聞いてね!」

「....全部俺に押し付ける気か」

「ダメ?」


なんだかんだ言って最終的には応えてくれることを知ってる
そう見上げ返せば、小さく息を漏らす様子に「ほらね」と心の中で自分に言った



「全員、逸れないで付いてくるように」

「はーい!」













一係オフィスから遠い部屋から順に案内する

今までとは全く違うテンションの子供達に、刑事課は誰にとってもやはり特別なのだと感じた

そんな子供達の前でも真面目な表情を崩さない横顔が、仕事はきっちりする伸兄の性格そのままだ



















「ここが俺が働く、刑事課一係のオフィスだ。」

「お!やっと来た!」


そう勢いよく立ち上がった秀君は、すぐに「みんなおいでー!」と子供達を集める


「これがドミネーターで、こっちがレイドジャケット!みんなどっちから試したい?」

「ドミネーター!」

「私ジャケット着て写真撮りたーい!」

「はいはい一人ずつ、一人ずつ!」


普段から陽気な秀君は、さすが子供の扱いが上手だ



「....いいの?任せて」

「これが今日のあいつらの仕事だ」



元気いっぱいの小学生の相手をする四人の執行官
その中の一人と目が合えばドクンと胸が鳴る
会えた嬉しさと、昨日拒否してしまった申し訳なさが入り乱れる








「お前の友達、確か有峰と言ったか」

「あぁ、なっちゃん?あの子伸兄の事好きだよ」


オフィスの隅で肩を並べて、はしゃぐ子供達と執行官を見守る

昨日数日ぶりに会ってあんな事があったのに、こうして普通に会話出来ているのは、やっぱり約20年一緒に過ごした日々の積み重ね故だ


「なかなか積極的なやつだな」

「え?」

「食事に誘われた」


その発言に思わず横を向いた
どんな顔をしているのかと思いきや、無表情だった


「.....あっそう....良かったじゃん。行くの?」

「知りたいのか?」

「.....別に」


....なんか調子狂う
伸兄が私の友達とだなんて想像もしたくない


「悪かった....一人にして」

「....なに急に」

「青柳の家にいた」


私は突然襲われた苦しさに目を見開いた
青柳さんといえば、神月執行官と付き合ってるって
....じゃあ本当に彼女なんて


「シャワーも夜中にお前を起こしたら悪いと、青柳に借りていた」

「.....なんで」

「お前が狡噛に染められていくのを見ていられ

「そうじゃなくて!....なんであの時言わなかったの」


楽しそうに盛り上がるこの部屋の空気を壊さないように、出来るだけ声を抑えて


「....お前が聞いてくれなかったんだろ。俺に釈明する機会も与えずに出て行ったのはお前だ」


その通りなのに、自分が責められているようで良い気がしなかった
私は急いで話題を変えようとした


「....ダイムはどう?元気?」

「気になるなら帰って来ればいい」

「....その手には乗らないから」

「戻って来い、名前」

「だから

「あいつに見られたか?」

「....なんの話?」

「昨日俺が付けた跡の事だ」

「っ、まさか最初からそのつもりで!?見せるわけないでしょ!」

「三日は消えないだろう、それまでどう誤魔化すつもりだ」

「自分で付けといて心配してくれるの」

「治るまで家に帰って来ればバレないだろ」

「.....なんでそんなに強気なの、なんで私に拘るの」

「言ったはずだ」


いきなり耳元に生温かな空気を感じ、何か込み上げて来る感覚に身を捩るのも間に合わず





「必ず取り戻す」

「....やめてよ、ここがどこだか分かってるの?」

狡噛さんだって目の前にいるのに

「.....お前が必要なんだ、戻って来てくれ」


そう途端に弱くなる伸兄に、またじわりと罪の意識が広がった





[ Back to contents ]