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「うわー!かっけぇ!ドミネーターだ!本物!?」

「あぁ本物だ、落とすなよ」



子供達を見てると、俺にもこんな時代があったなと思わされる

そんな、将来の刑事課を担うことになるかもしれない小学生を相手しながらやっぱり気になるのは名前とギノだ


視界の端で並んで立つ二人
今朝見てしまった赤い印
色相が濁る程の摩擦があったとは思えない、以前と変わらない雰囲気で会話する様子


それともう一つ、
俺は今日出勤してすぐギノに疑問をぶつけた

『ギノ、ちょっと来てくれ』
『なんだ。今忙しい、ここで話せ』

オフィスにはあとヘッドホンで音楽を聴く六合塚しか居なかったため、まぁいいだろうとそのまま続けた

『....昨日名前が一度帰っただろ』
『あぁ』
『....名前に、会ったのか?』
『お前なら直接名前に聞けばいいだろ』

そうパソコンから目も離さずに、皮肉めいた声で突き返された

『ギノ!答えろ!』
『お前はあいつの言葉を信じないのか』
『....それは....』
『好きな女性の言葉に信憑性を感じないのは、狡噛、どうかと思うが?』

痛い所を突かれた気がして、言葉が出なかった
ここで出勤前に見た物を話すのは流石に気が引けた

『狡噛、俺からも一つ言っておくが、名前がお前を選んだとしても、俺はあいつをお前に譲る気はない』

『これ以上名前を苦しめてどうする!自由にさせてやったらどうだ!』

『お前にあいつの何が分かる、名前がお前を選んだ理由がただ好意だけだと思うか』

『っ....』

『勘違いするな』




あんなに憔悴しきっていたギノが、突然元に戻った
しかもどちらかと言うと、以前よりも落ち着いている







「おじさん!これどうやって使うの?」

「プハッ!コウちゃんおじさんって呼ばれてやんの!」

「....俺はそんなに老けて見えるか?」

「俺よりはねぇ?」

「それは当たり前だろ。どうした?」


そう俺に寄って来た子供に合わせて身を屈めた時だった


ギノが名前の耳元に何か囁いたのが見えた
それを避けようとしながらも、恥ずかしそうな表情をする名前から目を離せなかった

お揃いの高級なスーツが二人の関係性を示しているようで嫌気が刺す


「ねぇおじさん!」

「あ、すっすまない、何だっけか?」

「これ!どうやって使うの?」


そう両手でドミネーターを持つのが似つかわしくない


「これは俺達警察しか使えないんだ。向けた先の人間の心を暴ける」

「僕の心も分かる?」


そう聞く目は輝いていて、俺はそっと引き金に手をかけた

“ユーザー認証 狡噛慎也執行官 公安局刑事課所属 使用許諾確認、適性ユーザーです”


「おぉすごい!青く光った!」

その眩しい笑顔に銃口を向ける

“犯罪係数 アンダー20、執行対象ではありません。トリガーをロックします”

「お前は良い子だって言ってるよ」

「本当?僕良い子?」

「おい!」


そう突然割り込んで来た声に、手元のドミネーターを引き抜かれる


「何をしている!子供にドミネーターを向けるなど!」

「良いだろ、これくらい。後で履歴を消しといてくれ」


その背後を追いかけて来た名前と目が合う
申し訳なさそうな雰囲気が、昨日の事を示しているのはすぐに分かった


「もう!子供達の前で怒鳴らないでよ!」


相変わらず締めきった首元のボタンが気になって仕方が無い
だが勝手に見てしまった都合上、本人を問いただすのも気が引ける



「....そろそろ時間だ。レイドジャケットとドミネーターは元あった場所に仕舞うように。」

「えーもう終わりー?」

「もっと遊びたい!」

「駄目だ」

「いいよ」

「っ!名前!」

「別にいいよ、他の所あんまり興味ないだろうし。多少刑事課での時間が増えても大丈夫」

「広報課に見つかったら俺も責任を問われるんだぞ」

「伸兄が言わなければいい話でしょ?」

「.....全く、お前はどうしていつもこうなんだ」


そんな何の隔たりも無い二人の空気感に、俺はただ眺める事しか出来ない

俺と居る時はいつもどこか緊張しているような名前は、俺の事を意識してくれているという意味だ
それは確かに嬉しいが、隣の芝は青いとはこの事を言うのだろう

俺はこんなにも嫉妬するような男だったのか



「....分かった、あと10分だけだ」

「15分」

「名前!俺達も仕事があるんだぞ!」

「真面目でエリートの監視官様が5分すら押せない程、仕事を溜め込んでるわけないよね?」

「....お前、随分言うようになったな」

「うーん、どこぞの口煩い兄のおかげかなー?」





「....なに、あの二人仲直りしたの?」

同じ疑問を持つ俺に、縢が耳打ちして来た

「俺も聞きたい」

「え、コウちゃんも知らないの?」

「......」

「ちょっ、まさかコウちゃん妬いてる!?」

「肯定したくないな」

「何でよ!良いじゃん!コウちゃん怒ったら怖そー」

「怒るぞ」

「今のフリじゃな

「はーい!質問がありまーす!」


そう俺達の会話を遮ったのは、元気の良い男の子の声だった
それは子供達の対応をしていたギノと名前に向けられていた



「二人はお友達ですか?」

「え?な、なんでそう思うのかな?」

「お姉さんは刑事じゃないって言ってました!って事は眼鏡のお兄さんとは一緒にお仕事しないですよね?」

「あ、確かに!なのにとっても仲良さそう!」


その様子に“最近の子は感性が鋭いのね”と呟く六合塚


「べ、別に友達じゃ...」

「じゃあもしかして、恋人同士ですか!」


無邪気な子供達とは相反して、その質問に大人達は凍り付いた
当の二人がどんな顔をしているのか、背を向けられている俺達執行官には分からない


「この間テレビで見ました!“シャナイレンアイ”ってやつですか!?」

「恋人だなんて、絶対ちが

「その質問に答える代わりに、刑事課の見学はここで終わりにする。どちらを取るか選べ」

「えー!そんなのずるいですよ!」

「選ばないならどちらも無しだ」


ギノらしい提案に、子供達はまたドミネーターで警察ごっこを始めた





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