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嘘にまた嘘を重ねてから一夜明け、今日は土曜日
私は仕事はない

そんな私とは違って出勤していった狡噛さんの部屋で、佐々山さんの写真を見つけた

....標本事件、だったかな

全てを変えてしまった元凶
狡噛さんはまだこの事件に囚われてるのかな....

そこで分厚いフォルダを見つけて手を伸ばそうとした時だった



廊下に繋がる扉が開く独特な機械音に、狡噛さんが戻って来たのかなと思ってそこへ体を向かわせた


「狡噛さ....」


でもそこに居たのはしっかり上までネクタイを締めた男


「っ!な、なんで!?」

「俺は監視官だと言ったはずだ」

「そんな、職権濫用だよ!しかも私が居るって分かってたならチャイム押せばいいじゃん!」

「20年一緒に過ごしてきて何を言う。家でわざわざチャイムを鳴らした事は無かっただろ」

「ここは狡噛さんの部屋だよ!?」

「だから監視官権限が使える」



そう言われると、今までどんな時でも、伸兄はそうしようと思えば出来ていたことに気付く

それなのに一度も押し入ってきた事が無かったのは...?



「.....それで?何しに来たの?」

「家に帰れ」

「なっ!嫌だって言ったじゃん!」

「何が理由だ」

「それは!.....それは」


何故と聞かれると、思い当たるものが無かった
別に伸兄が嫌いでも、あの家が嫌いでも何でもない

むしろダイムにも会いたい


「いつまで意地を張るつもりだ。家に帰ったからと言って狡噛に会えないわけじゃないだろ」

「....まぁ、そう、だけど....」


それでも好きな人と一緒に居たいと思うのは普通だ
狡噛さんは迷惑だと思ってないかな....
本当はソファで寝てるのも無理してたり....


「でも着替えとかいろいろ持ってきちゃったし!」

「それくらいいくらでも買ってやる、帰って来い」

「だから無理だって!」



私を真っ直ぐ見下ろす視線に、負けじと見つめ返す



「.....何が言いたいの」

「あの日、何故あんなに取り乱した」

「え?」

「自分で言っていただろ。俺がどこで何をしようと知った事じゃないと。なら、何故だ」

「.....なんとなく.....」


確かにそう聞かれると答えに詰まった
あの時は伸兄から漂う知らない匂いと、私が悩んでた間に楽しんでいた事に絶望した

それがどうしてかと言われれば、私にも分からない



「.....もういい、最低限必要な荷物だけまとめろ」

「いや、は!?私の話聞いてた!?帰らないって言ったじゃん!」

「一係はこれから出張に向かう、ダイムを誰も居ない家に置いておくわけには行かない」

「っ!なら最初からそう言ってよ!」


変に騙されたような気分だ
同時に少し寂しさも感じた



「....狡噛さんは....?」

出張となるとどれくらいかかるか分からない
せめてその前にもう一回


「執行官は全員前乗りした」

「....そっか」































エレベーターに乗り込んで、地下駐車場に向かう
ほぼ毎日の様に繰り返していた事なのに、もう懐かしく感じる


「家まで送る、そしたら俺はすぐまたここに戻る」


その言葉に昨日なっちゃんと居たのを見た事を思い出す


「いいよ、自分で帰れる」

「.....」

「....な、なに」


急に疑惑の目を向けられて困惑する
何か変な事言ったっけ?


「....いいから、大人しく言う事を聞け」

「まーた子供扱いする!」

「なら成長しろ」

「私身長は平均だけど?」

「そういうところが子供だと言っているんだ」


エレベーターを降りていく背中を追って地下駐車場に出る



















「何をしている、早く乗れ」


助手席の座席を見て思うのは、本当にここに座ってもいいのかという感情
もう私の席はここじゃないんじゃないか

どうもなっちゃんに申し訳ない気がしてしまう


「....やっぱり自分で帰るよ」

「は?」

「だって、なんか悪いよ」

「なんの話だ」

「.....なんでも、ない」


なぜか思ってる事も言えないし、聞けもしなかった


「と、とにかく自分で帰るから、伸兄は仕事に....」


そう歩き出そうとした時だった

....無い
電車に乗るためのパスが無い

確かに部屋を出る前にポケットに入れたはずと思っても、出てきたのは職員証だった


「それで?帰れるのか?」


そう背後から聞こえた声に笑われた気がした


「.....送ってください」





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