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「うわ!部屋広いじゃん!」

「はしゃぎ過ぎよ」


沖縄に到着した俺たち執行官は滞在するホテルで監視官の到着を待っていた

....名前は家に戻ってしまうのか



「それにしても沖縄か...」

「何かあるのか?とっつぁん」

「いやぁちょっとな....俺が一生を誓った女性がいるんだ...」

「それはつまり、宜野座監視官の母親という事ですか?」

「まぁそうなるわな」

「じゃあ、その人に会いに行くんすか?」

「いやぁ、俺達執行官は監視官の同行が無いと出歩けない。伸元が許可を出すとは思えないな」

「なんで?自分の実の両親でしょ?...痛っ!なんだよクニっち!」

「人の家庭の事情にあまり首突っ込むべきじゃないわ」

「構わないさ、全部俺が悪いんだ。あの時代はなシビュラシステムが導入されたばかりでな。潜在犯への偏見が蔓延ってた。俺がその潜在犯になったせいで、妻子には本当に辛い思いをさせた....」


そう話すとっつぁんは紛れもなく夫であり、父親の顔をしていた


「その時、名前はどうだったんだ?」

「ハハ、さすがコウは名前が気になるか。妻の母親、つまり俺の義母から聞いた話によると、伸元が支えていたらしい。自分も辛かったろうに、名前にも例外無く向けられた好奇の目があの子には届かないようにしていたそうだ。全く、よく出来た自慢の息子だよ」

「....だから監視官は潜在犯への嫌悪が強いのに、名前さんはそうじゃないんですね。そんな大事に守って来た名前さんをまた潜在犯に奪われるなんて、確かに皮肉にも程があるわね」

「おい....俺を見るなよ....」

「うっわ、クニっちきっつ!そもそも名前ちゃんがコウちゃんの事好きなんだし、コウちゃんには非は無いっしょ」

「征陸さんはどう思ってるんですか?」

「血の繋がりが無いとはいえ、名前も家族だ。伸元と同じくらい大事に思ってるさ。だからこそ二人とも幸せであって欲しい。そのためにはどうしたらいいんだろうな....あいつに彼女が出来た事もないだろ、コウ」

「....確かに高校時代から一緒だが見聞きした事はないな、告白されてるのなら見た事あるが」

「え!?マジ!?ギノさんが!?」

「いちいち失礼よ縢。あの高身長と顔で、エリートよ。モテてもおかしく無いわ」

「あいつの容姿は母親譲りだ。妻は若い頃本当に綺麗だったんだぞ」


そう呟くとっつぁんは笑っていた

ギノの母親か、見た事ないな....
想像も出来ない


「ゲッ、征陸のとっつぁんまで惚気かよ....でも俺はコウちゃんの方がカッコいいと思うけどなー」

「男に言われても嬉しくないな」

「告られた事あるっしょ」

「まぁ....ある事にはあるが。俺の話はやめてくれ」

「うわ、コウちゃんが恥ずかしがってる!」



縢が俺を幽霊でも見たかのような目で見て来た時だった

全員のデバイスが一斉に鳴った



「....監視官が到着したようですね」

「やっとかよ、空が渋滞してたってーの?」




























「遅れてすまなかった。全員資料には目を通してあるな」





名前は結局俺に本当の事を言わなかった

生理が来たと言うのも嘘ではないかもしれないが、そう言う事じゃない、と追求できなかった

名前にとってギノが大きな存在である事は分かってる
正直そこを断ち切れと言うつもりはない

同じ苦難を乗り越えて来た二人には、不可侵の太い糸があるはずだ
それは俺が口出しできる領域ではないと理解している


だがもし、名前のギノに対する思いが俺への好意より深く強いものだったら

俺はどうするのが正解なんだ


昨日食堂階のエレベーターホールでの名前の表情が脳裏に焼き付く

どう見てもショックを受けた様子だった

....ギノが他の女と居るのが嫌なのか?





「おい、狡噛。集中しろ」

「聞いてるさ。要はその連続レイプ殺人犯を捕まればいいんだろ」

「....難点は、ここ沖縄で街頭スキャナに引っ掛かった人物が居ないということだ」

「ここはもともと東京程スキャナが多くないからな。土地勘があればそれを避けて行動するのも難しくないかもしれない」

「一応街中のスキャナは本部分析室に委託している。もし引っかかった奴が居ればすぐに我々に通知が来る」













会議が終わり本捜査は明日朝からとなった

各自部屋に戻った中、俺は居座り続けていた


「なんだ、俺に用でもあるのか?」


二人きりになった室内でギノはそう俺に問い掛けた


「昨日のは、何をしていた。名前の友達に手を出したのか」

「お前はそれを本気で言っているわけじゃないだろうな」

「本気ならとっくに殴ってるさ」


そう冗談めいた事を言いながら俺は立ち上がった


「ギノ、話がしたい。少し付き合え」

「.....お前の部屋にでも行けば良いのか」





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