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「璃彩ちゃん最近ちゃんと燃えてる?」

「この世界がもうちょっと平和になってくれればね」



ここ分析室は、刑事課全三係にとって欠かせない場所
それを司る唐之社志恩は、今日も変わらずグラマラス


「凌吾君が寂しがってたわよ?」

「今度外出でもしようかしらね。それより一係はどう?」

「ぼちぼちね、容疑者を三人までは絞り込めたんだけどね。そこから少し行き詰まってるのよ」

「早く解決して帰ってくる事を願うわ。三分の一の戦力が削がれてる刑事課は結構大変よ」

「そんな一係監視官からは、休暇申請が出てるわ」

「え!?宜野座君が?今まで一度も無かったわよね?」

「えぇ、逆にその分申請が通る可能性が高いかもしれないわね。そしたら実質一係は居ないも同然よ」

「はぁ....出張だけでもこっちは頭痛いのに、休暇だなんて....何考えてるのかしら」

「まぁ確かに?例の一件から少ーしずつだけど、数値は上がってるしね。メンタルケアに気を抜かない宜野座監視官なら有り得るかもしれないわ」



そう言われるとあの日宜野座君の家で見てしまった光景を思い出す
本当なんてものを....







「あ、あの....お邪魔ですか....?」


その声に私と志恩は後ろを振り返った


「あら!名前ちゃんじゃない!」


今ちょうど頭に思い浮かべていた人物の登場に、平常心を取り戻すべく一度座り直した


「どうしたの?」

「いや、あの....お仕事中だったらいいんですけど....」


そう私を見る名前ちゃんは、あの時私もその場に居合わせていた事を知らない


「大丈夫よ、私も志恩と少し話してただけだから」

「じゃあ...唐之社さん、狡噛さんに通話をかける事って可能ですか?」

「あったり前よ!何、恋しくなっちゃった?」

「いや!あの!そ、そうじゃ....」


そう顔を赤くして両手を振る様子が初々しい


「恥ずかしがらなくてもいいのよ!オーケー、私に任せて!えぇっと...慎也君ね」



スピーカーから流れる着信中の音に構える名前ちゃんを見守る
この子を巡って、同期二人がバチバチやってると思うとねぇ...
変な感覚だわ







『なんだ志恩、今会議中なんだが』


暫くしてすぐ聞こえてきた狡噛君の声に、志恩の顔を見る名前ちゃん
それにウィンクを返した志恩の意図は分かりやすいわ


「あ、あの、狡噛さん、お仕事中にすみません....」

『....名前か?.....悪い、少し出て来る』

『なっ、おい!狡噛!どこへ行く!会議中だぞ!』



.....音声だけでも情景が目に浮かぶわね
そんな機械を通した宜野座君の怒号は徐々に遠ざかっていき、すぐにここ本部分析室には届かなくなった




『どうした、名前』

「....だ、大丈夫ですか?怒られませんか?」

『それより俺は名前の声が聞きたい』

「....ちょっと、あんまり恥ずかしい事言わないでくれる?私もいるのよ」

『ん?青柳か?』

「そうよ、青柳よ。一応教えてあげるけど、あなたの愛しの名前ちゃんは、現在熱があるんじゃないかってくらい赤くなってるわよ」

「あ、青柳さん!」

「全く、慎也君はよくそんな台詞を言えるわよね」

『本音を言っているだけだ。名前が嫌ならやめるが...』

「....だそうよ、名前ちゃん」



志恩と私に同時に顔を向けられてあたふたする名前ちゃんは、確かに少し弄りたくなるわね....




「えぇっ...わ、私は....嬉しい、です....」

『だそうだぞ、そこに居る女2人』

「まるで私達がオバサンみたいな言い方ね、これでも私は名前ちゃんと同い年なのよ」

「.....え!?唐之社さん、85年生まれなんですか!?」

「そうよ?知らなかった?」

「私てっきり年上かと....」

『悪いが、青柳と志恩は少し席を外してもらえるか。名前と2人で話したい』

「はいはい、お邪魔虫は撤退しますよ。行きましょ志恩」























「ねぇ志恩、あの2人どう思う?」

「慎也君と名前ちゃん?お似合いだと思うけど?」

「私ね、あの幸せそうな2人を見てると“あぁこれで良かった”って思うんだけど、少し罪悪感もあるのよね」

「どうしてよ?あなただって潜在犯と付き合ってるじゃない」

「あの子、何か我慢してると思わない?」

「我慢?私にはただ慎也君に愛されて嬉しそうにしか見えないわよ?」

「名前ちゃん、突然狡噛君選んだでしょ?絶対裏があると思うのよね」

「え?両思いで告白されたんだから、何も不思議な事はないじゃない」

「.....実はね、私が全てを狂わせたんじゃないかって思ってるのよ」

「.....どういう意味よ?」



そう分析室前の廊下に、志恩のタバコの煙が薄く広がっていく





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