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「あーあ、名前ちゃんを乗せた車は公安局を出ぱーっつってか?」

「笑い事じゃないぞ佐々山」

「落ち着けギノ。名前だって友達と外出くらいするだろ」

「狡噛、お前はこの状況、本気でそう思ってるのか」

「相手が男で、しかも例のあの男だからだろ?もし名前に気があるんだったら食事に誘うくらい普通だ。いくらギノでも、名前の恋愛事情に首突っ込む資格は無いんじゃないか?」

「...知ったような口利くな!」

「ギノ先生ー、怒ってても名前ちゃんは戻ってこないよー」













約2時間前


いつも名前が仕事上がりに刑事課にやってくる時間

しかしその代わりに起こった事は、

『狡噛、至急人事課に行って名前を捕まえてきてくれ』
『....今度は何事だ』
『名前があの男と出掛けようとしている。絶対に阻止しろ』
『何でだ、それは名前の勝手だろ』
『無駄口叩いてる暇があったら早く行け!取り逃したらお前の責任にするぞ!』



全く....
とりあえず名前本人から事情を聞くだけはするかと人事課に向かったが、すでにほとんどの職員が退勤していた


『....あの、人事課に何かご用ですか?もう受付時間外ですが....』


そう俺に問いかけてきた女性職員に警察手帳を取り出す
....仕方ない


『っ!け、刑事課の監視官様がどう言うご用け
『本日の人事課全職員の退勤記録を見せていただきたい』
『か、かしこまりました、すぐにご用意致します』


監視官権限とは便利なものだ
職権濫用な気もするが、これくらいいいだろう



『データは分析室に転送してください』
『わ、分かりました....』












データを見せるために分析室でギノと合流する

『唐之杜、頼む』
『はいはい』

画面に大量の文字と数字が羅列する

『...というわけで名前はもう公安局の外だ。もう諦めろギノ』
『....クソ』
『ちょっとちょっと!いきなり監視官様が2人も押し入ってきたかと思えば、人事課のデータ?名前って誰よ』

と唐之杜は疑問をぶつけた直後に、画面のデータから同名の人物を発見し「あーもしかしてこの子?結構可愛い子じゃない!」と自答していた


『でも何でこの子追ってるのよ、あなた達とどういう関係?』
『あれ?知らないの?』
『佐々山いつのまに!』
『この二人でその子取り合っちゃってんの!もうバッチバチ!』


そう言いながら俺とギノの肩を掴む佐々山を鬱陶しいと払い除ける


『あら本当!?とんだラッキーガールね!』
『違う!俺の幼馴染みで、狡噛とは高校から知り合いなだけだ』
『監視官って何で皆こうも固ぇーの』
『お前が緩すぎるだけだ』

そう佐々山を咎めると不服そうに画面前のソファに腰を下ろした


『まぁとにかく、もう少し様子を見よう。名前から返信が来るかもしれない』

事件でも無ければ緊急性も要さない
勝手に捜査は出来ない

『....1時間だけだ。あと1時間以内に連絡が無ければ俺が捜索願を出す。狡噛、お前が受理しろ』























その結果、30分経過した時点で痺れを切らしたギノが再びメールを送信
するとすぐに名前から返信が来て、バーにいるとの事だった
酒場にいる事に名前があの男に飲まされるんじゃないかと、更に焦ったギノは再びメールを送信
それからまた30分音沙汰無し

そこでギノが名字名前の捜索願を作成し提出
俺が受理した
....あとで局長に何と言われるか....

名前の足取りを掴むために、公安局内の監視カメラを人事課の退勤時間から確認する事にした
そこには、地下駐車場にて男の車に乗り込む名前の姿が捉えられていた

そこで現在に戻る




「ギノ先生ー、怒ってても名前ちゃんは戻ってこないよー」


名前の事だ
きっとギノからの連絡がうざったくて電源を切ったんだろう


「唐之杜、今の車を街の監視カメラと街頭スキャナーで追ってくれ」

そう要求するギノに、唐之杜は困った顔を俺に向ける

「...いいの?慎也君。お叱りを受けるのは受理したあなただと思うわよ」

「ギノを止める方が難しい。問題無い、俺が全責任を負う。やってくれ」

「はいはーい」



凄まじいスピードでキーボードをタイプする唐之杜

約10秒で居場所を突き止めたのだから刑事課には無くてはならない存在だ

『新宿区か...行くぞ狡噛。執行官は局で待機だ』


























首都高に乗って、ナビに示された場所を目指して車を走らせる

『なぁギノ、もし名前もあの男が好きだったらどうするんだ』


少し前に、名前にどんな男が好きなのかと聞いた時に見せた反応
それがあの男を思って出た反応なのかもしれない
あんな恥じらった表情は俺は見た事が無かった

あの男よりももっと長く知り合っているにも関わらず、どこから湧いて出て来たのかもわからない男に、自分の知らない名前を見せられたのかと思うと、変に劣等感を感じた


『...それは絶対にあり得ない。名前があんな奴を好きになるはずがない。』


ギノの答えは、俺を納得させるにはとてもじゃないが不十分だった





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