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数日経過した今
まだ名前に叩かれた感覚が残っているようだった
今更後悔しても遅いのは分かっているが、それでも自責の念が止まらない
ギノにもどこか気まずさがあり、そんなギノはむしろ平常通りなのが憎かった
まるで名前が帰ったのがごく当然に思っているようだ
反対に俺はあれ程動揺してしまったのに
「また二人か....」
「これさー、思ったんすけど、犯人色相濁らないんじゃ捕まえようが無いんじゃないっすか?」
「現行犯なら確実だ。それに、色相と犯罪係数は異なる物だ。ドミネーターが作動する可能性は充分ある」
「それなら次のターゲット探しが優先かぁ」
「現在分かっていることをまとめます。被害者は全員20代独身で一人暮らしをしている女性。自宅にて殺害された後強姦されています。死因は毒物の服用。強制的に口内に投入され鼻と口を塞がれたと推測されます。そして....」
「これね」
モニターに映し出されたのは、猫を象った置き物
「はい、被害者女性宅全てで見つかった物です。現場で押収した実物がこちらになります。中には小型カメラが内蔵され、音声は送られませんが盗撮をしていたようです」
「つまり犯人が置いてったか、女性達にあげたってことっすよね?捨てられるかもしれないのに?」
「捨てた人は襲われてないって事だろう。分析官、盗撮した映像はどこに送られていたのか分からないのか?」
「多分殺した時に電源を切られてるわ、頑張ってログを復元してるところだけど....まだもう少しかかるわ」
「....待て、電源を切るくらいならなぜ持ち帰らなかった?」
俺の疑問に、全員が固まる
「.....盗撮が確実なら公安局への挑発、カメラ自体偽物ならブラフか」
「残念ながら前者ね、回線はまだだけどそれぞれが撮影していた物は復元できたわ。データ量が多過ぎるから一部画像の抜粋を写すわね」
「....っ」
「....これは、プライベートも何も無いですね....」
女性が着替える場面や、人目を気にせずリラックスする場面
見ているこっちが申し訳ない気持ちになる
「.....唐之社、引き続きログの復元をしろ。映像の送信先から、受信している他のカメラを探せ」
「はいはーい」
「縢と征陸は俺と来い、新しい2件の現場を再確認しに行く」
「.....それで?何やらかしたのよ」
分析室に残ったのは俺以外に志恩と六合塚
「そんなに分かりやすいか」
「えぇそれはそれはハッキリと」
そんな俺と志恩の会話に反応もせず、ひたすら小型カメラのログ解析にあたる六合塚
「....この間、お前ギノがどうって言いかけてただろ。あれは何だったんだ?」
「あぁ、実はね....慎也君があの子に告白してから宜野座監視官、璃彩ちゃんのとこに居たらしいのよ」
「......青柳?どういう意味だ」
「璃彩ちゃんに聞いたんだけどね。宜野座監視官、慎也君に奪われていく名前ちゃんを見てられなかったらしいわよ。あの子のあなたへの気持ちを止められないと気付いて、名前ちゃんを自由にさせる為にも、自らの心を守る為にもあの子と距離を置いてたみたい」
「.....じゃあどうして名前さんは、すぐに狡噛を選ばなかったの?監視官の反対も邪魔も無ければ素直に決断できたはずよ?」
突然会話に入って来た六合塚に、俺は喫煙の了承を求めた
「そんなの大切なお兄ちゃんを思っての事に決まってるじゃない。あの二人はたとえ恋愛感情が無くても、どう見ても相思相愛だしね」
唐之社の言う事はずっと前から気付き、理解していた
それが名前が答えを出せないでいた理由だということも
だが、
「ならそんな名前が何故急に考えを変えた。そんな大切なギノを何故置いて俺の所に来た」
「.....慎也君、傷付かないでよね」
「.....やっぱりギノなのか....」
「まぁここからは璃彩ちゃんの推測なんだけど、」
休憩室にて3本目のタバコ
....予想はしていたが、やっぱり名前は俺を取ったわけじゃない
どちらかと言うと、ギノを諦めたから
の方が近い
「なぁギノ、俺はどうしてもお前に勝てないのか?」
「それは高校時代、俺がお前に対して思っていた事だ」
「....いくら成績が良くても何にもならないな。今では執行官で、好きな女一人上手く扱えやしない」
「狡噛、お前がどう思うが何を言おうと、あいつが好きなのはお前だ。俺じゃない。勝手に俺を祀り上げるな。俺と名前の間では、あいつとお前の様な感情や関係性は一生生まれない」
「.....どうだかな」
俺はどうも、名前が自分の側にいる未来が想像出来なかった
それが、俺が名前から離れたのか、又はその逆なのかは分からない
だがきっと今と変わらず、ギノと奇妙な強い絆を築いているんじゃないか
俺は根拠無くそんな気がした
「だがな、ギノ。俺はまだ諦めた訳じゃないからな」
「....相変わらずしぶとい男だな。言っておくが、俺は名前の想いを応援している訳じゃない。そして今も変わらず、あいつは誰にも渡すつもりはない。もちろん狡噛、お前にもだ」
「“好き”と言う感情を甘く見るなよ、それは時に人を大きく変える事があるものだ」