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「えぇ!?止められなかったって....あなた!」
「....すまない」
「私に謝ってもしょうがないじゃない!あの子には?」
「.....まだ機会を掴めて、ないんだ」
「そんなのすぐに誠心誠意謝罪しないとダメよ!無理に攻めるなんてタブー中のタブーなのよ!?嫌われたとしても文句言えないわ!」
「......だが、あいつは好きだと言ってくれた」
「そんなのに甘えていい訳無いでしょ!今この瞬間も....って、ん....?あの二人は?」
「ついさっきまでリビングで映画を見てたじゃないか」
「.....まさか、この先は有料って事....?」
画面のどこにも、監視官と名前ちゃんの姿が無い
外出した形跡も無いなら考えられるのは.....
「.....またあいつの部屋か」
そう嫌味を含んだ声色で呟いた慎也君から聞いた話は衝撃的だった
いくら嫉妬して帰って欲しくなかったって言ってもね....
やっていい事と悪い事くらい
あの大人しい名前ちゃんにビンタまでさせたのだから、相当な事よ
しかもそれが、あの小型カメラのデータで見た宜野座監視官に良くされてた前日だなんて
.....慎也君に見せなくて本当に良かったわ
でも事件が終わって完全削除される前にもう一回見とこうかしら
名前ちゃんが想像以上に可愛いんだもの!
音声は無いけど、あの超真面目な監視官の余裕が無く攻める表情も、普段ウブっぽい名前ちゃんの満たされてる顔も、貴重過ぎるわ
せめて脳内には保存しないとね
後者の方は今目の前にいる男も見た事あるはずなのに、それを崩してしまうなんて、なんて事してるのよ
叩かれるくらいって事は、相当苦しんだ表情をしてたでしょうに
「だいたいあの子は、家に帰るだけでまた会いに来るって言ってたんでしょ?何がそんなに嫌だったのよ」
「....その時は....ギノに奪われる気がしたんだ」
「....あなたまさか、いつでもあの監視官と比べて来たって言わないでしょうね」
「....仕方ないだろ、名前の側にいつも居たのはギノだ。ギノの方が名前はどうして欲しいのか分かるだろ」
「それに似せようとしてたって事?!」
「いやさすがに口には出してない、ただ....思ってただけだ。ギノならどうするのか、ってな」
「はぁ....慎也君、あの二人は恋人じゃないのよ。それに名前ちゃんはあなたが好きなのであって、宜野座君じゃない」
「同じ事をギノにも言われた。だが
「えぇ確かにあの二人はもはや家族とも兄妹とも言えないわ。でもね、名前ちゃんがそんな“お兄ちゃん”じゃなくてあなたを好きな理由をよく考えてみなさい。もう一人“お兄ちゃん”が欲しい訳無いでしょ」
「.....」
「つまり、宜野座君を真似ても仕方ないのよ」
.....この男二人は、女性の扱いに関してはどちらかと言えば逆だと思っていたのに
この様子じゃ慎也君の方が圧倒的に不器用じゃない
「....それでどうするのよ、あなた取り返しの付かない事したのよ」
「....次会ったらちゃんと謝る」
「あなたねぇ...小学生じゃないんだから!他に何か無いの!?」
「それ以外どうしろってんだ」
「あの子が好きなのは“優しい狡噛さん”でしょ?それを精一杯心がけなさいよ!」
「......」
「まぁ、名前ちゃんが初めての恋愛相手なら無理もないけど....最初にして最難関選んだようなものだか
「いや、違うんだ」
「.....え?」
いきなりの否定に驚きを隠せない私を前に、慎也君例に倣ってタバコを吸い始める
「ギノにも、言ってないんだがな....」
「....初めてじゃないの?」
「....高校時代にシビュラの相性適性で判定が出た女と少しだけ付き合っていた事がある」
「ちょっと、それあの子には?」
「名前は俺以外好きになった事がないと言われた。そんな相手に簡単に言い出せる訳無いだろ....」
これまた爆弾発言に頭を抱えた
「本当に少しだけだった。半年も無かった」
「シビュラの適性が出ておいてどうして続かなかったのよ」
「.....なんか違かったんだ。その時はギノと名前とも知り合ってた。言い争いはしてもお互いを尊重し合う仲睦まじい二人を見てるのが微笑ましくて好きだったな。なんとなく、そんな存在を期待していたのかもしれない」
「.....そりゃ振られるわね」
「.....まぁ相手の女を好きだったのかと聞かれれば分からない。ただ適性が出た、相手も了承をした。特に断る理由も無かったんだ」
「はぁ....それがどうしたら今度はその名前ちゃんを求めるようになったのよ」
「.....さぁな、気付いたら意識し出し、欲しがるようになってた。.....どうしてだろうな、ギノの存在を知っておきながら、特殊な関係性を理解した上でも、やっぱり名前が欲しくてたまらない。ギノを切り離せないあいつをどうしても自分に向かせたい」
「.....男の狩猟本能ってとこかしら。それでも何をどう言おうと今回の件はやり過ぎよ。次のステップ踏み間違えたらもう終わりだと思った方がいいわ」