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「....監視官、大丈夫ですか?」
「.....え、あぁ、すまない、続けてくれ」
「.....随分お疲れの様ですが....?少し仮眠を取られてはどうですか?」
「問題ない。俺に構わず続けろ」
「ギノさんダメじゃないっすかー。センセーが、昨日の夜名前ちゃん自分の部屋に居なかったって」
「....まさか監視官....、名前さんと
「違う、勝手に解釈をするな。俺はただ眠れなかっただけだ」
怖いと言う名前は、まるで嘘かのようにすぐ眠ってしまった
そんな警戒心のかけらも無いあいつの隣で、いつ事件が動くかわからない恐怖に全く寝付けなかった
「でもすごいっすね、名前ちゃん俺達の前では普通なのに、ギノさんと二人だと急に子供みたい」
「随分甘えられてるんですね」
「しかもギノさんも甘やかしてるし。さっきの出勤前の、何も言わずに名前ちゃんのスーツの襟を直してあげるところとか、俺ギノさんの事見直したかも」
「それを当然のように受け入れて、気にせず推薦ニュースを見続ける名前さんもさすが慣れてるんですね」
「あぁ!あと名前ちゃんが
「もういいだろ!それより報告の続きをしろ!」
全て誰かに見られていると思うと全く落ち着かない生活だ
これを解決するまで続けなければならない
終わったら二度と御免だ
「....はい、名前さんの30代くらいの男性という証言を元に、被害者宅に出入りがあった男性を探したところ該当する者は業者の男性など数名いました。しかし、20代の男性で気になる人物が....」
そう六合塚がスクリーンを切り替えると、自分の目を疑った
「....なっ!」
「....あれ?この名前どこかで....って、名前ちゃんの親戚と同じ名字じゃないっすか!」
「六合塚!確かなのか」
「はい、サイコパスの定期検診も受けておらず就職もしていないようなので住民データが更新されていません。なので最新の情報がこの防犯カメラの映像です。そして、名前さんの証言通り....」
映し出されたのは自宅玄関先で、名前に袋を渡す男の後ろ姿
....あの時捨てたパンか
そもそも、自分より年下の男を30代だと考えた名前の感覚はどうなっている
「こいつの居場所は分からないのか」
「フェイスレコグニションで検知されていないので住処は廃棄区画と推測しています。そして街頭スキャナーに引っかかっていないので、仮に見つけ出しても執行できない可能性が高いです」
「....要は、やっぱりこのまま俺達がギノさんと名前ちゃんを監視するのを続けるしか無いって事っすね」
「依然として、現行犯で犯罪係数を測定するのがベストだと思います」
「.....クソっ!」
前に東谷美紀子が、息子が名前に会ったと連絡が来たのはこの事だったのか
....あの一家はどこまで名前を苦しめたら気が済むんだ
「....とりあえず、東谷家に事情聴取に行きますか?」
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「わっ!....あ、狡噛さん....」
退勤して41F刑事課フロアでエレベーターの扉が開いた時だった
目の前に立つ人物に嬉しいのか気不味いのか複雑だ
「....えぇっと....」
「休憩室、少し付き合ってくれるか?」
「あ、はい....」
その背中について廊下を進んで行く
たどり着いた先で変わらずにリンゴジュースを奢ってくれる
コミッサちゃんがプリントされた缶のパッケージが私の掌に包まれた
「あ、あの....叩いてしまってすみませんでした....」
缶を開ける前に私はそう頭を下げた
「やめろ名前、顔を上げてくれ」
「でも....」
「お前に謝られたら俺はどうすればいいんだ」
そう言われた私もどうすればいいのか分からなかった
何はどうであれ、沖縄出張前の件も含めて2回も拒否してしまった
自分で好きだと言っておいて、あまりにも酷い
「何よりまず、本当に、すまなかった」
「い、いえ....」
「名前、」
「え、こ、狡噛さん....」
両手で優しく顔を掴まれれば、視線の逃げ場が無くなる
強制的に注がれる眼差しに心臓が騒ぎ出す
「俺は、お前を大切にしたい。もう説得力は無いかもしれないが、お前を守りたい。だから、叶うなら俺の側に居て欲しい」
「.....それは、その....どういう....」
「一応プロポーズのつもりだ」
.....え?
今、なんて
「....え、あの、....えっと....ちょっとよく....」
「安心しろ、今すぐどうこうしたいわけじゃない。ただ俺の覚悟を伝えたかっただけだ」
「......でも私、っ...」
「言うな、言わなくていい......分かってる」
私の唇をなぞるように触れる親指
「今はまだこのままでいい、返事ならいつまでも待つ。だがこれだけは約束してくれ」
突然の事に全く頭がついてこない
「名前、お前は優し過ぎる。その優しさでは決断しないでくれ。お前が本当に選びたい方を選べ」