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「....伸兄機嫌悪い....?」



いつものように退勤後帰宅した俺と名前は、するべき事を終え、それぞれの時間を過ごしていた


俺は自室にて、今日あった事への自分の心情を整理しようとしていた




そんなところで部屋に入って来た名前は、何かを言おうとしてそれをやめた

その代わりに放たれたのが先程の言葉だ


俺は今名前の言う様に、機嫌が悪く見えているのだろうか

正解ではあるが、それが誰から見ても明らかなのか、長年一緒に過ごして来た名前だからこそ分かる事なのか



「秀君の報告書がダメだった?」

「それはいつもの事だ。むしろ慣れた」

「.....あれ?ドミネーター家に持って帰って来てるの?」

「.....返すのを忘れただけだ、気にするな」




一番気にしている俺が言うのも皮肉なものだ
















縢と六合塚を連れて、公式に東谷家を訪ねた


『....はーい....ってまたあなた?』

『今回は正式に捜査に協力してもらう。後ろ二人は執行官だ。協力拒否は許されない』

『え、ギノさんこれ任意

『黙っていろ縢。 貴様の息子について話を聞きに来た。中に通せ』


その場ですぐ再び犯罪係数を測って執行したい感情を抑え込んで、捜査を優先する








『この間話した通り、もうずっと息子とは会ってないわ。もう2年近いかしら』

『名前と会ったと連絡が来たと言っていたな。見せろ』


受け取ったデバイスをそのまま六合塚に手渡した


『2年前まではこの家に住んでいたのか』

『そうよ、部屋を見たいのかしら?』

『案内しろ』







そうして連れられた部屋は、特に何の変哲もない一般的な部屋だった

母親の美紀子をリビングに戻らせ、縢と六合塚と部屋の調査をした



『名前さんに会ったと言う旨のメッセージについてですが、送信元の位置情報は特定出来ません。使い捨てのデバイスだった可能性が高いです。しかし、送信時間は監視官の自宅を訪れた直後に当たります』

『.....分かった、六合塚はデスクのパソコンを調べてくれ。縢は俺と引き出しやクローゼット、本棚を探る』

『分かりました』

『了かーい、じゃあ俺引き出しで』





クローゼットを開け中を調べるも一見普通だった

衣服、布団、鞄等で埋め尽くされていて、整理が全くなっていなかった

その中で唯一異彩を放っていたのが、女児向けの古い服
薄いピンクのワンピース

鑑識ドローンに渡すも、古すぎてDNA鑑定が出来なかった



次に本棚に向かうと、今では珍しい紙の小説や卒業アルバム
卒業アルバムは申請すれば紙で発行された物を買うことが出来る
だがその卒業アルバムに違和感を感じた

『....六合塚、容疑者の出身中学と高校がどこだか分かるか』

『出身校ですか?......西東京新東伏見中学と、東京都立第5高等学校です』


そんな六合塚の言葉とは裏腹に目の前にあるのは、東東京第2中学校と日東学院高等教育課程の卒業アルバムだった

.....俺と名前の出身校だ

年度はそれぞれ2101年と2105年の物
俺の卒業年より1年ずれている
つまりこれは名前の代の物....

嫌な予感しかしないそれを手に取り開くと、所々黒く塗りつぶされている人物

まさか
まさか




『監視官!これを!』


そう叫んだ六合塚の前のスクリーンに映し出されていたのは大量の画像データ


『.....うっわ、マジっすか.....ギノさん今まで知らなかったんすよね?』


幼い少女、制服に身を包んだ女子生徒
その全てが俺がよく知る人物だった

そしてその中には俺自身の画像も含まれていた



『.....全て監視官と名前さんが学生時代よりも前のものですね。見る限り、幼少期の画像以外は名前さんが中学を卒業する頃から、監視官が高校を卒業するまでの間でしょうか』

『.....その時期は今とは別の場所に住んでいた。俺が公安局に就職したタイミングで今のマンションに引っ越した』

『まさかそれを探してたって事っすか?』

『名前さんに関しては、他の被害者女性とは別で考えたほうが良さそうですね。仮に同じ行為をするとしても、狙いが違うと思われます。今までの被害者はただ欲を満たしていただけでしょう。名前さんには明らかな執着があります』

『じゃあその狙いって?名前ちゃんが好きなの?』

『そんなの私に聞かれても知らないわよ』

『.....本棚に卒業アルバムがあった。名前の顔は全て黒く塗りつぶされている』

『うわっ!気持ち悪っ!』

『.....好き、では無いようですね。普通は嫌いな相手にする行為だと思います』

『とりあえずここを重要参考現場として抑えろ。そしてそのパソコンを本部分析室に持って行く』

『了解しました』


















どうしてこうも、名前を苦しめようとするヤツがいる

名前が何をしたと言うんだ

色相が濁りそうな思考が纏わりついて離れない





「.....大丈夫?」


その声の主は簡易色相チェッカーを俺に向けていた
そこには通常より若干濁った色
さすがシビュラが監視官適性を下しただけあるな
こんな状況下で少ししか濁らないとは


「心配するな、一時的な物だ。今の事件が終われば改善する」

「ならいいんだけど....あ、あのね、ちょっと聞きたい事があって来たの」



そう言いながらチェアを引き出してそこに腰掛ける名前



「その.....ほら伸兄法学部法律学科だったし、国家法曹士T種も取ったから、法律は詳しいかなって」

「あぁ、どうした」

「ただ知りたいだけ!気になっただけ、ね?」

「分かったから早く言え」



















「.....せ、潜在犯との婚姻って可能なの.....?」





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