▼ 独占欲

「ほんと、意外だわ」

「なんの話だ」



食堂にて対面に座る同期の青柳
狡噛が施設送りになってからは、時々こうして昼を共にしていた



「誰にも関心が無いのかと思ってたわ。私にも興味を持ってくれないし」

「お前に誘惑された覚えなどないが?」

「してないわよ。逆に誘惑されないとその気にならない草食系?」

「食事中だぞ」

「全く、名前ちゃんにしか食い付かないのね」


その言葉に一度橋を置く


「あいつは家族同然だ、気にするのは当たり前だろ」

「過保護過ぎてウザがられてない?」

「あいつの身に何か起こるよりは、ウザがられた方がマシだ」

「あら、いいお兄ちゃんね。でもあの子も、私達の一つ下よね?そろそろじゃない?」

「何がだ」

「男連れて来るのがよ。普通は父親に“娘をください”だと思うけどね。どうする?“妹さんをください”なんて言われたら」

「....仮想の話を議論する価値は無い」

「頭も体も優秀な監視官様のお眼鏡に叶う男なんて、そうそう居ないだろうけどね。そんな妹思いなお兄ちゃんに朗報よ!」






















































「おかえりー」


玄関を開けると、真暗な廊下を抜けて先程の声の主が居るリビングへと向かう

ソファで俺に目もくれずにテレビを見る名前に、怒りにも似た感情が湧き上がる


「テレビを見るなら灯を付けろと言っただろ」

「んー、ちょっと今いいとこ....ってちょっ!」


いとも簡単に押し倒される名前は、本当に危機感が無い
手荒にスーツのジャケットを脱いでその場に放る

そんな状況にも関わらず、手と言葉では俺に降りるよう要求するも顔は依然としてテレビに向いている


その様子にテーブルの上のリモコンに手を伸ばてそのままスイッチを押す


「え!なんで消....んんっ!?....ねぇ...ッ」


その顔の横に手を着いて、乱暴に自分の苛立ちを押し込む
どこまでも逃げる舌を、どこまでも深く追いかける


「....んっ、甘いな」

「...はぁ...さ、さっきチョコ食べたから....じゃなくて!急に何なの!?」

「自覚が無いのか」

「....灯付けないでテレビ見てたからって事!?」

「そんな訳無いだろ」

「はぁ?じゃあ何....ってだからやめてってば!」



パジャマの襟元から覗く鎖骨から首筋にかけて熱を這わす

誰かに奪われるくらいなら


「...いっ!....ちょっと、また見える所に付けてない!?」

「少し黙ってろ」

「なっ、....ぁあッ...」


無意味な強情さも、敏感な部分をさすれば色を含んだ声と表情に変わる

それが全て自分のみに向けられている物だと思うと気分が良い


「....んッ...」

「覆うな」


恥ずかしいのか口元を抑える手を掴むと、唇を噛み締める始末


「我慢しなくていい」

「だって...はぁ、黙ってろ、んっ....って」

「....従順なのは褒めよう」

「はっ...あ、ねぇ...やっ」


柔らかな膨らみも、漏れ出す水音も、刺激に耐える声も表情も
全てが麻薬のように俺を支配する

幼少期から共に過ごして来た名前に、こんな事をしたかったのかと言われればそれは違う
説得力の無い話だが、名前に下心を抱いた事など無い


指をゆっくり沈めれば、また違った反応を見せる

「ぁぁッ!」
「なっ」

嬌声が響いた瞬間、グッとその発声元が近付いたかと思えばネクタイを掴んで引かれた事に気づく


「はぁ...伸兄って、こういう時別人みたいに変わるよね」

「どういう意味だ」


唇と唇が触れる距離で続けられる会話


「スーツって良いよね、私伸兄のスーツ姿好きだよ」

「....それは煽っているのか」

「そう思...んんっ」


自分で質問しておきながら、その答えを遮るように貪る
深く深く隅々まで堪能する
1ミリも逃さないように






弱々しく俺の胸を叩くのを合図に身を引き離せば、必死に酸素を取り込む姿にさらなる欲が生まれる

その様子を直接目視したくて、その隔たりを取り除いてぞんざいに投げる



「ちょっと!メガネ壊れちゃうよ!?」

「元から伊達だ、構わん」



部屋着をはだけさせ、裸も同然の様子に熱が暴走する



「せめて寝室に....」

「悪いが主導権は俺にある」


行為自体を拒否しない名前も名前だ
そのせいで俺は身を引く事を知らない



籠った欲をゆっくり埋めれば、自然と理性を忘れる









「はッ....はぁ....こっち向け」

「ぁんッ....伸、兄今日....ぁッ....何か、変...んッ」

「自業自得だ...何のために、っく...はぁ....異動させたと思ってるんだ....」

「え、な....んっ、の話、んぁ...ちょっと止めッ....イっちゃ...ぁッ!」

「....っ....好きにイけばいい」



俺の腕を掴む両手に力が入る
それと共に腰が浮けば、余計に止め時が分からなくなる




「待っ、ぁあッ、私まだイったばっ....んぁ」








限界まで乱れて、狂ってしまえ

俺の前だけで


































「....ねぇ、どうしたの?今日変だった」


俺の胸の上で紡がれる温度
それを逃さない様に抱きしめる


「異動させたってどういう事?」

「....またあの男と二人で会っていただろ」

「....え、まさか相馬くん!?急に異動したから変だなと思ってたけど伸兄の仕業だったの!?」

「そんな事より、会ったのか会ってないのか」

「仕事でちょっと総務課には行ったけど、二人で会ってないよ。会う理由が無いし」



.....青柳のやつ....
俺の気に障ると分かっていて騙したのか
おかしいと思ったんだ
名前には酔ったあの夜の記憶は無いというのに



「なに、嫉妬しちゃったの?」

「....俺はお前の彼氏じゃない」

「彼女も居ないくせに」

「裸で抱き合っている相手によく言えるな」








異性として好意があるのかと問われれば、それとは違う

ただ、名前のどんな部分も俺だけが知る物であって欲しい

誰にも奪わせない


このまま誰にも





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