▼ 54.5

「いいか?」


タイミングを完全に逃してしまい、そのシャツの下に指を這わせながら問いかける


「い、今ですか...?」

「名前が嫌な事はしたくない」


そう口では言いながらも身体は止まらない



本当は許可を求めるよりも、ギノとはどうしていたのかが知りたかった

あいつはどれくらいお前を満たせていた
あいつでどれくらいお前は満たされていた

今まで何度あいつを求めた
何度あいつにその声を聞かせた
何度あいつにそんな顔を見せた
何度あいつにお前を味わせた

そんな事を知っても、余計自己嫌悪を引き起こすだけなのは分かっていた

それでも、あいつでも見た事がない名前がまだあるんじゃないかと隅々まで探る



「ぁっ、ん....」

未だ乾いていない涙の跡に口付けを落とした

俺の手を支配する柔らかな膨らみ
それを丁寧に丁寧に扱う
少しでも力を入れれば壊れてしまいそうで

優しく漏れる嬌声は俺の欲を増幅させた

暑い

その熱に耐えられなくなって自分のシャツを脱ぎ去った
その一瞬さえ名前に触れられないのが惜しくて、適当にその場に放った


「ど、どうした」


それとほぼ同時に、すかさず両手で顔を覆った様子に困惑した
ゆっくりその手をどかしてやると、朱色に染まった表情に胸が鳴る



「....その...大きい、ですね....」

「....どういう意味だ」


そう聞き返すと、名前は慌てて手をパタパタと振って否定し始めた


「あ、いや、変な意味じゃなくて!筋肉のことです!どれくらい鍛えてるんですか....?」

「それ程でもないさ。暇な時リフレッシュ代わりにトレーニングしてるだけだ。適度な鍛えは必要だしな」

「適度な鍛えでそんな身体になりませんよ....」

「それはギノの事か?」


俺の言葉に凍りついた名前の顔に、やってしまったと気付く


「....す、すまない」

「.....私が好きなのは狡噛さんです」


ならギノは何だと聞きたくなる衝動を抑える


「ずっと前から、私は狡噛さんが好きなんです」

「....その言葉覚えたからな」

「はっ...ぁ....」

「脱がすぞ」



少しずつ覆っているものを剥がしていく
滑らかな肌に触れただけで理性のたかが外れそうになる



「綺麗だ....名前....」

「そんな事無いで、んぁっ...」


敏感な部分に吸い付けば溢れる蜜に俺は良い気になる


「だ、ダメですよ、あぁッ、汚いですそ...んッ、こ」

「綺麗だと言っただろ」


もはや麻薬だ
いくらでも欲しいと思える


「指入れていいか?」

「い、いちいち聞かないでください....」


....つまりギノは聞かなかったという事か
とまた余計な事を考えてしまう

あいつはもっと、こういった行為には臆病な男かと思っていたがそうではないらしい
名前はそういうのが好みなのか...?


「あぁっ...はぁ...」


指を沈めると色を増した声に、下腹部がより窮屈になる


「んぁッ、狡噛が、みさ、んんッ」


俺を呼ぶその濡れた唇を塞いだ
同じ空気を直に共有していると思うと胸が満たされて行く


「はぁ....もう我慢できない、いいか?」


と言い終わって気付く
また聞いてしまった

名前の反応が怖くなって、それを待たずに欲を押し込んだ


「んっ...キツいっ...」

「ぁあっ、言わな、っいで下さ、はぁッ」


もはや何だったら言っていいのか分からなくなる
だがそんな思考も快楽にかき消されて行った


俺の下で、俺の律動で、俺と同じリズムで乱れて行く名前がどうしようもなく愛おしい


「っ、はッ、好きだ、名前」


そう言うと少し締め付けられるのが、俺を酷く満足させた
それを悟られたくなくて一度抜いた


「名前、そこに手を付いて....」

くれないか?
と続けようとした言葉を飲み込んだ
もうこれが俺の性格なのかもしれない

それがあいつより劣っているわけではない事を願うしかない


「....こ、こうですか?....、んぁッ....!」


素直に従うその腰を掴んで後ろから入り込む

簡素な部屋に、互いの吐息と水音、そして一方的に俺が打ち付ける感情が響く
それを名前が受け取ってくれると信じて



「んっ、はぁっ、私、もう....」

「はっ....俺も、限界だ....っく」










頭が真っ白に染まる
肩を震わした名前は、そのままソファに沈み込んだ

その様子に仮眠用に置いてあった毛布をかけてやった

「もう疲れただろ、今は眠れ」


もうすぐ朝日が昇るような時間だ
名前はこの行為以前から、すでに疲弊していたはず

家でギノと何があったのかは分からないが、どう見ても大丈夫ではない


「で、でも、今寝たら仕事に行けません」

「志恩に頼んで欠勤届を出してもらおう。あいつになら簡単な事だ。だから眠れ」









俺はタバコを一本取り出して火をつけた

この安らかな寝顔を必ず守らなければと煙を吐いた





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