▼ 105.5

「今夜だけでいい、名前で呼んでくれ」


その言葉と共に首元に埋められた顔から熱い感触が徐々に胸元へと降りていく



「んッ....っ!」



口を覆っていたはずの腕は、捕まれベッドに縫い付けられるように押し付けてくる力には抵抗できない

私と狡噛さんじゃ力関係は明白だった



「抑えるな、聞かせて欲しい。見せて欲しい」

「いや...

「嫌じゃない。俺で感じてる声も表情も全て、俺に欲しい」




既に一度終わりを迎えていたはずの行為

だからこそ進展も早い



「ぁっ...んぁ...ダ、メです....」



ダメ

ダメなのに



「こんなに溢れさせておいて何がダメなんだ?」


そうわざと私に聞かせるように音を立てて何度も入って来る指

いくら正確にその点を突いてなくても、私を見下ろす表情と逞しい身体と、止めてくれない強引な淫らな音に意思を保つことは容易じゃない


「はぁっ、あッ、こうが

「慎也と呼べと言っただろ」

「む、りで...あぁッ、もうっ」

「はぁ....仕方ないな」

「.....え?」



途端に静かになる空間
達しそうだった熱にすがる



「名前、」

「んんっ!....んっ、はぁっ、ん」



苦しいほどのキスに思わずその胸板を叩くも、すぐにまた掴まれてしまう


「んん!くる、んはっ、し....」




それでも降り注ぎ続ける口付けに、限界を迎えそうだったその時





「んんっ!?....なっ、ぁあッ!」

「っおい、くっ....」



前触れ無く押し入ってきた重量に、掴んでいた熱が遂に全身を駆け巡る




「....入れただけでイくなんて、可愛過ぎてとてもじゃないが我慢できないな」

「ま、待ってくださ、っぁ!はぁ、んぁ」

「はっ...名前、好きだ」



達したばかりの私には強過ぎる刺激で、思わず逃げようとしたが、それに気付いたのかしっかりと両手で私の腰を捉える








どうしよう

どうしたらいいの



どうして“分かった”なんて送ったの

そんなの望んでないくせに




私が逆の立場だったら、絶対に嫌だった事案だ

それは伸兄にとっても同じなはずなのに、どうしてあんな怒りしかこもってないメッセージを

むしろ“ダメだ”と本心丸出しの言葉を送ってくれた方が良かった

それならいつもみたいに反抗出来たのに


こんなのじゃ余計に心配になってしまう


伸兄をこれ以上濁らせるわけにはいかない


いかないのに、




狡噛さんとの夜を止められない私の意志の弱さは、強く揺さぶられる度に歓喜に満ちていく


これが逆だったら私は許せないでいただろう
家を飛び出したあの日と同じように


それなのに、

目の前には大好きな人
その人が私を強く求めてくれてる

どうしたら拒める?






「ごめ、んぁッ、はぁっ....許して.....」


私に好きな人が居る事を

許して



「はっ、クソっ....名前」

「え、ぁあッ!待っ、そんなっ、激しッ」



突然私の肩を掴み、力任せに打ち付けてくる圧に涙が出た



同じ激しさでもやっぱり違う感覚

狡噛さんは物凄く焦ってる感じがする

....こんな時に比べようとしてる私は愚かだ





「狡が、みさんッ....」

「はぁっ、だから名前で、呼べと....っ」

「好きで、んぁッ、す」

「....それはずるい、な...ぁっ、くっ....名前....名前ッ」

「はぁ、んッ、んぁあっ!」





....薄い膜越しに感じる温もり

それが抜かれていけばぐったりと沈む私の身体




.....気持ちいいのに、この不安は何?

どうしてこんな嫌な予感がするの?


分からない
自分の気持ちが分からない

こんなに好きなのに




「え、わっ!」




倒れ込んだ体をまた引き起こされて、後ろを向かされる




「足りない」

「ど、どういう意味で、ぁあッ!!」


容赦無く背後から貫かれた感覚に、目が開き叫びにも似た声が上がる


「ちょっ、本気ですか!?」

「お前が愛おし過ぎるせいだ」

「そんな、んっ!んはぁっ、んん!」


私の肩越しに突き出してきたその顔に、律動に合わせて口内を犯されたり外れたり


もう何が何だか分からない





未だ帰らなきゃと考える理性

私を求める大好きな人

耳にかかる吐息

それに加えて敏感な蕾と、胸の頂からまでも送り込まれる刺激



それでも感じる不安

拭えない



私は何が不安なの?

何に対して嫌な予感を感じてるの?


伸兄に怒られる?
伸兄を傷付けてしまう?


.....違う
どれも違う





「んっ、はぁ.....名前、愛してる」

「ぁあッ、もう無、理ッ」

「っく、はぁっ....いくぞ」





私を強く抱き締めながら、再び吐き出された欲



私は真っ白なシーツに沈み込んだ





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