▼ 125.5

「はぁっ...んっ...」


浴室というだけあって、どんな音もよく響く

降り注ぎ続けるシャワーは互いの全てを満遍なく濡らしていく

だからこそ口内を満たしているのは、自分の唾液か相手のか、それともシャワーのお湯なのかもはや判断が付かない


「んん、んぁっ....ん」


何度も何度も角度を変え、深く深く貪り合う間にも、敏感な部分への刺激は止まらない

腰は強くぴったりと抱き寄せられ、隙間無く絡み合う身体


「ぁあッ....待っ、もう....」

「我慢しなくていい」


迫り来る熱に、その首に必死にしがみ付く
爪を立ててしまわないように気をつけながら


「んっ、ぁッ....っ!」



私は安心する腕の中で小さく身体を震わした
どっと解放されるような感覚が全身の力を抜いていく






「はぁっ....はぁ....なんでまた、急に....」


肩で息をする私の顔を上げさせた伸兄
その髪から滴る雫に思わず目を瞑った

もう大分伸びて来てるけど....
メガネだけじゃ足りなくなったのかな
目元を隠すの


「言っただろ、これ以上は見過ごせない」

「....だから、何が?」


そう聞くとゆっくり息を吐いて目を逸らされる


「....あいつが好きか」

「....聞くの?」

「....はぁ....」

「な、なに....?」


深い溜息と共に私を包み込む体温
それに今までどれだけ助けられてきた事か
反対に私は伸兄を助けた事があるのだろうか
いつも"絶対的な信頼"に甘え、わがままを言い困らせてきた

今も伸兄のサイコパスを改善させるには、まずは自分の問題を解決しなきゃいけない事は分かってる
でもどうしても出来ない
何をどうしたらいいのか分からない
狡噛さんに感じる不安を理解できない
私はどうしたいんだろうか


「名前、」

「ぁっ、はぁっ....んッ」


ゆっくりと侵入して来る指は、ただその一点を目指す



「.....自分の感情に従え」


「え?....なっ、あっ.....ッ」


圧が増した感覚に指が増やされた事を理解する
"良い所"優しく摩る刺激は、私を少しずつ堕としていく

それに耐える為に、適度に筋肉の付いた胸板に顔を押し付けるも、


「は、んっ....待って止め....ぁあッ、伸にっ、いッ....!」


的確過ぎる快楽にすぐに負けてしまう






「随分早くなったな」

「はぁ....ん」


どちらからとも無く迫った軽い口付けは、


「んっ、んはッ.....ふ、ん」


また深いものへと変わっていく
足元が滑りやすい中での爪先立ち
それでも支えてくれる腕に絶対大丈夫だと思える

口の中で求めるように交わる舌


「ん....待って、顔見たい」


私から無理に引き離すと、続きを欲するように伸びて切れた透明の糸
私はその頬に手を伸ばして、目元にかかる前髪を耳に掛けてあげた


「せっかく綺麗な顔してるんだから、せめて私には見せて」

「....はぁ....お前はもう少し状況を考えてから発言しろ」

「え、んんッ」



顔が見たいと言ったばかりなのに、再び深く入り込む温かみを私も拒めない

キスだけでこんなにも満たされていく

その心地良さにどんな雑念も今は消え失せる



「んはぁっ.....もういいな」

「ま、待って!部屋戻りたい.....立ったままじゃ疲れる」

「.....どうしてもっと早く言わない」

「そっちがそんなに大きいのが悪いんじゃん!」

「.....」

「....背の話!私は平均身長だもん!」



大きく溜息をついた伸兄は、慌ただしく風呂場の扉を開けバスタオルを3枚取った

一枚を私の肩に、一枚を自分の腰に巻くと"早くしろ"と私を浴室から連れ出す










「か、髪とか乾かさなくてもいいの?ベッド濡らしちゃうよ?」

「何の為にタオルがあると思ってる」


寝室に入ると、残りの一枚を自分のベッドに自ら広げた伸兄に"なるほど"、と納得する間も無く、


「わっ!」


すぐに私を上から覆った身体に、背中に感じるのはマットレスの柔らかさ


「まだ何か要求はあるか」


そうデスクの引き出しに手を伸ばし、小さなパッケージを取り出した様子に、そんな所に置いてあるのかと感嘆する
それを荒々しく歯でちぎって開ける姿から思わず目を逸らした

確かにあまり良くないタイミングで、場所を移したいと言い出してしまった



「....顔、見せて」


私の再度のお願いに、今度は自分で耳に掛けてくれる

その光景に私はギュッと枕の端を掴んだ


「....はぁっ、ぁっ....」

「....っ、きついっ」



押し入ってくる圧迫感に、その形まではっきり分かってしまいそうだ

次第に揺れだす視界






一動目からただ一点を突かれる私を支配するのは、またすぐに込み上げてくる情


「名前」


首元に感じた吐息を、くすぐったいのに受け入れるように顔を逆に向ける

もはや私は達しやすい体質なのかとすら思う
実際そんな事は無いと思うが、逆に伸兄が正確過ぎる
それが意図的なのか、偶然なのか
偶然だとしたら奇跡的だ

そんな事を考えている間にも止まらない迫る波
枕を握る指に力が籠る


「あぁっ....も、はっ、.....ッ!」


....弾け飛ぶような快感に目の前が真っ白になる
そんな余韻に浸る間もなく


「まだ序盤だぞ」


そのまま抱え起こされ、間も無く下から突き上げられる衝撃に首元に強く抱き付く


「あッ待っ、て、んぁッ.....私イったばっ....はぁ」

「っは、目を閉じるな、俺の顔が見たかったんじゃないのか」


そんな事を言われても、と思うが言われた通り目を開けると、絡まったのは私を少し見上げる視線

身長差やそもそも状況という制限もあって普段なかなか見れない余裕の無いそれは、一段と私の中をかき乱す熱の形状をはっきりとさせる


「っ!名前っ....」

「また、ぁ、来るっ....はっあ、も無、理....」


大きく身体を震わせた私を伸兄は強く抱き締めた





「はぁ....伸兄キ


スして
と続けようとした言葉を遮ったのは、まさにキスだった

....これだから私達は....


「....次は手加減しない」

「....むしろしてたの....?」

「お前はすぐ音を上げるだろ」

「それは私のせいじゃ、っ!ぁあッ、激、しッ....あっ!」



再びベッドに沈んだ私を強く深く揺さぶる律動

その度に何もかもが悦楽に染められて行く




何も考えられない

何も考えなくていい

ここに存在するのは、互いに求め合う二人だけ


「....はぁ、名前....っく....!」





ただ二つの乱れた呼吸が響く室内

布団をかけてくれた伸兄は、一度灯りを消しに行ってまた背後から私を抱き寄せた

私はその腕の中で、向き合うように体の向きを変えてから布団を少し引き上げた





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