第2話 まんじゅう怖い


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 苦笑いしながらそう言った人見の言葉に目を見開く。これまで関わったことがない上、存在も認識されてなかったと思っていたのに。怖がられるようなことはしていないし、そんな印象を与えるほど人と話もしていない。どちらかと言えば俺は舐められるような下位カーストに属するタイプだと思っていたのだが。

「へぇ…俺もお前が怖いけどね」

 変な返しをして警戒されるのも何か嫌で、迷った挙句思ったことを口にする。ぼそりと呟いた声は小さくて掠れていて、微かに空気を揺らしただけだった。

「え、ええ!?なんで!?」
「うるせえよ。別に嫌いとは言ってねぇだろ」
「なんでぇ〜」

 俺の言葉は普段の言いたい放題よりもずっと人見に刺さっているようだった。口が悪い自覚はあるが、だいたい笑って流す図太い人見が気にするのはそこらしい。

「なんでって…底抜けに明るいから」
「なんだ、それじゃあ反対だ。俺は浅香が底抜けに暗いから怖かったんだ」
「全身から陰気なオーラ垂れ流してるからな。別に自覚はしてるけど。みんながみんな人見みたいに明るかったらそれこそホラーだろ。俺みたいなのでバランスとっておかないとうまくやってけないよ?」
「浅香、そんなこと言うけど本当に…今から失礼なこと言うけど、ただ暗いだけじゃなくて…」

 考え込むように目を閉じた人見をじっと見つめた。

「死んだような目というか、どん底にいる感じっていうか…目が合った瞬間、こう…引きずり込まれるような感じっていうか…あ、別にそこに悪意を感じるとかじゃないんだけど…」
「……」
「初めて目が合った時、ゾッとした」

 ぱちりと大きな目を瞬いて言った。ぼおっと人見を眺める。別にそう思われていたことにショックを受けているわけではない。ただ、そういう風に映っていたんだな、と思っただけだ。

 いつだって生き地獄で溺れてるような感覚だったんだ。そんな目をしていて当たり前。

「でも…話してみると以外と違くて」
「そうか?」
「気づいてないだけだよ。浅香俺が話しかけると顔明るくなるもん」
「自意識過剰なんだよアホ」

 吐き捨てると人見がにやっと笑った。こいつはひょっとしてドMなのか?
 睨めば睨むほどクスクスと笑う人見はかさついた声でだけど、と言った。

「一回浅香が大荷物で歩いてるの見て。この辺に住んでるのかなって思ったら、ただおばあちゃんの荷物持ってあげてただけだったんだよね。まったく見知らぬ人っぽかったから、この人以外と優しいんだなって。俺の浅香に対する印象はそこで爆上がりした」
「え、待っていつの話?」
「うん?冬だったから…半年くらい前?」

 その頃からもうすでに俺は人見にある意味目をつけられていたのか?でも普通、何の関心もない人間の行動なんてそんなに気にするか?俺のイメージがあまりにもマイナスだったからその差に勘違いしてるだけなんじゃないのか?

「まあ俺いい人だし。優しいし。っていうか俺ちゃんと真面目な人間だから」
「あはは、そうそう。だから俺けっこう浅香のこと気に入ってるんだよね」
「きも」
「そういうとこだよ」

 ゆるりと笑った人見の言葉に考える前に口から出た暴言にしまった、と思ったが、人見は怒ることもなくへらへらと笑っている。

 心臓がなぜだかバクバクして、顔に熱が集まるのが分かった。人見の顔を見れない。その一挙一動に無駄に注意を向けている自分がいた。

「そろそろ行くよ。浅香、昨日は本当にありがとう。来週から頑張ろうな」
「え、何を?」
「何って、教育実習だよ!」
「あ、ああ…来週だっけ…」

 大丈夫なのか?と驚いて顔を覗き込もうと人見が近づいてきた途端、耐えられずに勢いよく立ち上がる。さっさと人見を追い出したところで、一人になった静かな玄関に力が抜けてへたり込んだ。

 バクバクとうるさい心臓と、胸騒ぎとも言えるざわついた気持ちの悪さ。

「……なんだこれ」

 呟いた声は情けなく震えていた。


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