第3話 紛れ、惑う


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 遠藤先生の授業は分かりやすく、人柄の良さが出ていた。聞いていて、もう何遍受けたか分からない高校の授業が頭に蘇る。そう難しそうに感じないのはただ俺が舐めているだけなのか、どうなのか。

 耳にタコができるくらい聞き、受けてきた授業や、社会人として大勢の前でやったプレゼン、交渉。予備校のアルバイトをやっていたのは何回前の人生だったが忘れたが、そんなものたちが今更役に立っているとは皮肉ものだ。

 しかし遠藤先生のような授業はきっと俺にはできない。

 生徒一人一人を理解しようとし、よく見ているその姿勢を俺はマネする気にもなれない。表面だけ繕えればそれでいいような気がしてしまった。

 一方で黒木の授業はかなり淡々としている。ある意味では力業ともいえるその授業は、黒木の出す異常な空気を生徒が怖がっていることで成り立っていた。

 しかし的は得ている。何が分からないのか分からない、そんな生徒と向き合うというよりは、はなから理解されない前提で順序立てをすることで先手を打っているような印象だった。

 質問をする生徒もいない。それは黒木が怖いから、というより黒木の授業が、生徒が理解できない点を生徒自身が気づく前に絶妙にうまく回収しているからのように見えた。

 これはこれでいきなりレベルが高すぎる。でもこの黒木のスタイルを身に着けられれば、かなりコミュニケーションの量を減らせそうだ。

 授業中じっと黒木を見つめれば、切れ長の目がふとした時に睨みつけるように俺に向いた。その目に見覚えがあるかと言われれば、あるようにも思うし、ないようにも思える。

 チャイムと同時に授業を終えた黒木は、挨拶が終わるとすぐさま教室を後にした。俺が廊下へ出た時にはもうすでに姿は見えなかった。

 なんとなくの違和感を捕まえることはこの時間にもできなかった。


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