第4話 連れ去って、逝って
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『19時に駅で』
簡素なメッセージを開き、消去した。場所も時間もいつもと一緒。いちいち残しておく意味もない。メッセージを消すことであの男と会った証拠を消せるのなら喜んで消去する。
本格的に梅雨に入ってしばらくが経ち、蒸し暑い日が続いていた。講義室も最近はすっかりエアコンが効き始めている。窓の外は灰色の空に降りやむ気配を見せない雨だった。
教育実習が終わって3週間が経つ。形だけの色紙を渡され、苦労をねぎらわれ即行で忘れられるであろう俺とは対照に、人見はクラスからの色紙の他に生徒個人からの手紙やらお菓子やら、とにかく盛沢山で帰ることになっていた。荷物を持つのを手伝わされた挙句、強引に飲み屋に引っ張られ人見の相手をさせられたのも、もう3週間も前の話になっていた。
あれだけ毎日家に泊まりに来ていた人見もめっきり押しかけてこない。たまに校内で鉢合わせして軽い挨拶をする程度になっていた。
そんなものなのだな、と虚しく思う。こうなることを望んでいたというのに、相変わらず自分勝手だ。あんなにも他人との接触を避けていたのに、いざ求めていた他人の体温をいつでも感じられるようになって、欲が出たのかもしれない。
そんなことを黒木に抱かれながら思う日々が続いていた。
「おつかれ」
駅前のロータリーに止まった黒のセダンに近づくと、運転席の窓を半分開けた黒木が表情を一ミリも動かすことなく声をかけた。助手席に周り傘を畳んで車に乗り込む。もうすっかり慣れてしまったこの時間に、感情がすんと落ちていくのが分かった。
車内には黒木の吸う煙草の煙が染みつき、それをかき消すように芳香剤がうっとうしい匂いを漂わせている。黒木は一言も発することなく車を発進させた。
今日の行き先はどこだろう。ホテルか、自宅か。シートに体を預け、黒木の寝室の柔らかいダブルベッドを思った。暗くて、狭くて、空気のこもった穴倉のような寝室。これから汗をかくのも気持ち悪い。今日はただ沈み込んで泥のように眠りたかった。
「煙草、いいですか」
「駄目」
低い声でぼそりと言った黒木の言葉を即座に拒否すると、黒木はそれきり何も言わずそのまま車を動かし続けた。小雨が窓を叩く一定のリズムと、ラジオも流れない沈黙が心地よかった。このままずっと車に揺られていたい。
うとうとと夢と現実を行き来していたら、車が止まるのを感じた。バタンとドアが閉まる音がしたと思ったら、助手席側のドアが開いた。薄く目を開けると、黒木の体が覆いかぶさるように上にある。カチリと音がして窮屈だった体が楽になった。体が浮き、黒木が歩く振動を感じる。無意識に振り落とされないようにしがみついていたような気がする。
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