第4話 連れ去って、逝って


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 柔らかいオレンジ色の電球がぼんやりとあたりを照らす。目開ければ、ベッドの端に上半身裸で腰かけた黒木が煙草を吸っていた。視線に気がついたらしい黒木が後ろを振り返る。
 
「疲れてるんですか?」

 気だるげな甘い声だった。常に丁寧な言葉遣いと、その大人の色気がなんともミスマッチしている。
 
「……別に、そんなんじゃないけど」
「今日はもう帰りますか?」

 就寝灯を反射した目がギラリと光る。名目上、俺に付き合っているのは黒木だが、こういう時体を求めているのもやはり黒木だ。何がどうしてこんな関係になったのかもう分からない。

 ヤれないのなら他を当たればいいのに、黒木に限ってそんなことはしない。そのくせ、黒木は一度も俺に好きだとか歯の浮くようなセリフは言わなかった。それがかえって俺を安心させていたのかもしれない。黒木は安全圏だと決め込んで、俺と同類なのだと思い込んで。

 実際のところどうなのかは分からない。黒木の正体というのはやっぱり謎だったからだ。
 
「……いや、」

 吐息と共に吐き出すように言ったら、黒木が妖艶にほほ笑んだ。今の答えをイエスととるか、はたまた拒絶ととるか、黒木はそれ以上話すことを許さないとでも言うように煙草を灰皿に押し付け、布団に埋もれる俺に覆いかぶさった。就寝灯の明かりが黒木に遮られる。柔らかい唇を味わい、他人の熱にすり寄るように肌を触れあった。

 罪悪感なんて感じる権利もないが、それでもこの気持ちに名前を付けるのは難しい。強いていうなら惨め、だろうか。こんなことでしか自分を慰めることができないことに苛つくと同時に安心している自分がいる。俺の居場所はあったんだと思いながら、手の届かない日向がうらやましくて、妬ましくて。

 もし人見だったら。

 黒木の体温を感じながら、それを頭の中で人見に変換する。罪悪感の根源はここなのだろう。誰にも迷惑のかからない妄想なのだからいいだろう、と思いながら、そもそも人見で妄想する自分のおこがましさが見てられない。
 
「享幸くん」

 ハッと意識を戻された。人見は俺を名前で呼ばない。
至近距離の黒い瞳に俺が映っていた。手を伸ばし頬を撫でる。白い肌に目の下の涙ぼくろ。これは人見じゃない、黒木だ。

 わかりきったように黒木がくすりと笑う。ずいぶんと俺の前では表情を崩すようになったものだ。
 
「まあいいですけどね。あなたが僕を誰かの代わりにしようがしまいが。あなたが楽になれるのならばそれでいい」

 これが優しさか、と言われればきっとそうなのだろう。

 でも、この優しさに身を預けすぎることはできない。いつかきっと黒木は俺を殺す。しかし同じくらい、人見も俺を殺す可能性がある。

 これは一種の契約だ。俺と黒木がセフレである以上、黒木が俺を殺すことはないし、人見が俺を殺そうものなら黒木が止める。問題はいつまでこの賭けに乗じるかだ。

 すでに人恋しさに負け、手に入れた他人の熱を手放せなくなっている俺には未来がどう転ぶのかまったくもって分からなかった。


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