第4話 連れ去って、逝って
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本当は期末テストの問題作らないとまずいんですけどね。
俺より大事ならそっちをやれよ。
相変わらず口が減らない。こんな弱ってる享幸くんを見れるならテスト問題なんて泥に捨てますよ。
「ほら、なにが辛くてこんなになってるんですか」
「んっ…」
安いベッドが音を立てる。黒木のベッドと違って柔らかくもないから背中が痛いうえ、暴れるたびに肘や膝が壁に当たった。安い学生アパートだ。壁もそう厚くない。必死に口元を押さえ、漏れ出る声を飲み込んだ。
「もしかして人見くんのこと?」
「はっ……な、にが?」
「まあいいですけど」
意味ありげに笑う黒木の余裕な表情に苛ついた。汗臭い自分にも、張り付くシーツにも、平常心なんて失うくらい犯してほしいのにいつものように優しくする黒木にも、何もかもに苛ついた。
「…あっ…てめ、なんで抜い…」
さっきから掠りそうでわざと突いてほしいところを外すうえ、浅いところで止まったきり黒木はついにゆっくりと自身を抜き始めた。
「なんで…なんでぇ…」
「僕も嫉妬はするんですけどね。まぁいいです。今日のあなた可愛すぎますよ」
圧迫感が徐々になくなっていく。必死に引き込もうとするのにそれに逆らって抜けた時のちょっとした解放感がまた気持ちよかった。しかし突然の空白感に涙がぽろぽろと流れてくる。
「あーあ…泣いちゃって。寂しいんですね」
呆れたように笑った黒木が顔を近づけてくる。その形の整った唇を反抗心で塞ぐと手のひらを舐めとられる。
俺は今お前とキスなんかしたくないんだよ。
荒れ狂った心の内に、声を出せばそう怒鳴りつけてしまいそうだった。
「入れて」
「…今日はそれですか」
不満そうにわずかに眉をしかめた黒木が諦めたように離れていく。抜かれていたモノが一気に奥まで入ってきて、思わず背を反らせた。
「ぁあっ…」
隣に聞かれちゃシャレになんねぇ…残る理性で手を口に当てようとしたが、その両手を掴まれ引っ張られる。
「んっんん…はっ…あ、あぁ」
背中を反らす度に頭がベッドの縁に当たりガンと音が鳴る。痛い。これじゃあ黒木が一回イった時には俺の頭たんこぶだらけになってるんじゃないか?
「…痛いでしょう」
ふいに動きを止めた黒木が俺の体の向きを変えた。バックになった途端、さっきまで当たっていなかった場所をガンガン突かれ、すぐに何も考える余裕がなくなってしまった。
さっきと違いうつ伏せにされたせいで逃げ場がない。痙攣が止まらない。終わらない快感に体が暴れるのに、それさえも上から押さえられて喘ぐことしか出来なかった。
「っあ…ふ…んぅ…」
「はっ…締まる」
「はぁっ…イく…イく…」
「っ…何回目ですか…?」
パチュンと厭らしい水音が部屋に響く。頭なんてとうに真っ白になっている。もっと忘れさせて。もっとひどくして。
享幸くん、と呼びながら黒木が果てた。
荒い息をつくのも束の間、余韻も消えないうちに黒木が動き始める。頻繁に俺の名前を呼ぶ黒木と対照に、俺は一度も黒木の名前を呼ぶことはなかった。
ただ体だけを求めたその手ひどいセックスを夜が深くなるまで続けた。
当然お互い疲れ果て、部屋の電気をつけた時には俺の意識は朦朧としていた。立ち上がることもできない俺に対して、涼しい顔に汗を浮かせ、やけに色気を漂わせた黒木は平然とシャワーを浴びに立っていた。
これから続く未来はどんなだろう。ぼーっとした頭で考える。
どんどん人見は薄れていくのに、どんな未来にも必ず黒木は側にいた。なぜか黒木に手を繋がれた俺は黒木を見上げる形になっていて、俺の手は小学生のように幼く小さいのだった。不安げに見上げると、あの整った顔でにこりと笑って見せる。その笑顔を見た俺は黒木を突き放すことなく、されるがままに歩いて行く。
死ぬんだろうな、と思った。きっと黒木に連れていかれるままに。
シャワーを浴びて出てきた黒木は、ベッドの上で未だにうずくまる俺を抱き抱え洗面所まで連れて行った。
「一人で大丈夫ですか?僕はもう帰りますけど」
「さっさと帰れよ」
口だけの反抗に肩をすくめた黒木は何も言わず出て行った。
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