第5話 時に飲まれる
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バス停付近の駅のロータリーに止められた車は今の時間かなり多い。その中から見慣れた車を見つけると迷いなく乗り込んだ。
「暖房、温度上げていい?」
「ああ、どうぞ。好きにしてください」
扉が閉まったのを確認するとすぐさま車が動き出す。渡されたホットの缶コーヒーで手を温めながら窓の外のイルミネーションに目を向けた。
「もうすぐ世間はクリスマスらしいよ」
「僕らは仕事ですね」
「ははっ、お前も相手いねぇんだ」
「あなたがしてくれるなら別ですけど」
どうせそうなるんだろうな、と思う。赤信号でハンドルを離した隣の黒木も湯気を上げるコーヒーをすすっていた。らしくないと言えばらしくない、黒木が運転席に常備されたミルクキャンディを口に入れようと包装を開けたところで、信号が青に変わった。放り投げられた微妙に開けられた飴を取り出し黒木の口に突っ込めば、指をべろりと舐められた。
「どこかで夕飯でも食べていきますか?」
「いや、いいよ」
「今うち、たいしたものもないですよ?」
「あるもんでなんか作る」
「そうですか」
大通りを抜け細い路地に入った。見慣れた道だ。
運転席へと視線を向ければ、暗い車内で外の車のライトに照らされた黒木の横顔は今日も不気味なほど整っていた。
大学を卒業して二年になる。気づけば25歳になっていた。24歳の誕生日も、25歳の誕生日も、俺にこうして付き合ってくれていたのは黒木だけだ。黒木との付き合いももう3年になっていた。
この3年間、黒木は俺に好きだとか、そんなことはやっぱり一度も言わなかった。それなのに当たり前のように終業後に飯を食って、当たり前のように寝て、相変わらず恋人なんてものを作ろうともしなかった。
「享幸くん」
「ん?」
「結局クリスマスはどうするんですか?」
――こいつもそんなこと気にするのかよ。
不意打ちに思わず笑えば、黒木も口だけで笑った。
たかがセフレ。俺と黒木の関係はそれだけのはずだった。だから約束もしないし次を取り合わない。そう思っていたはずなのに、こんな関係が続くだなんて思ってもいなかったのに。
「どうすっかなぁ」
わざとぼかせば黒木がくすりと笑う。サイドミラーには楽しそうに笑う自分の顔が映っていた。目尻を垂れてふんわりと笑うこんな顔を見たら、俺の死んだような目を知ってる人間は目を疑うだろう。
大晦日までひと月もない。この人生にもさよならだ。
なぜだか無償に笑えてきて、車が止まり黒木の家に着くまでの間、俺はずっと肩を震わせていた。
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