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「ひ、ぅ……あっ、あぁ……っ! ん、んン、や、ぁ、ん、あぁっ」
ぎしぎしと激しくベッドが揺れる音に合わせて、内側の柔らかい粘膜がぎゅっと押しこまれたと思ったら引っ張り出されそうになる。
内壁を抉る性器の動きが止まったかと思えば、尻を左右に強く広げられた。裂けそうな痛みはもうすでになくて、無理矢理広げられているせいでうまく収縮ができず、それが余計にもどかしくて気持ちよかった。
父がそのまま藍の尻を持ち上げる。挿入されたままであったから少し中で擦れるだけで身体がびくびく痙攣する。角度がよりきついものになったせいで、さっきまで届かなかった奥へと亀頭が入り込もうとしているのがわかった。
「へぁっ!? ま、待って、お父さんっ……! あっ、それ、ぅ、やばぁ、あ、あ」
「っ……ははっ、すげー顔。ここ、好きだろお前」
父の汗が降ってくる。低くざらついたその声に、ただでさえ痙攣していた下腹部が強請るように疼いた。
「藍」
「ぅ、あ」
最奥を叩かれれば、この後に来る快感を思い出して逃げ出したくなる。あまりに強烈すぎる快楽は恐怖でもあった。ぎゅっとシーツを握りしめる。思わず引いた腰を父が掴んで元に戻す。とん、とん、と規則的に弱く動いていたものはその後一気に藍の奥深くまで貫いた。
「ひぐ、ぅ、あぁッ!」
目の前がスパークする。触られていない自身からぴゅ、と白濁が散り腹に糸を引いた。最奥にはまり込んだ父のモノの形をはっきりと認識しながら、藍は全身をびくつかせてはくはくと息をしていた。
「は、は……ぅ、はぁ、ぁ、おく……おく、」
情欲的に笑った父の顔はあまりにも野性的で、その目で見つめられた藍は反射的にきゅぅとナカを締め付けた。
「動くぞ、藍」
「あ゛ッ、あ、あっ、――ッ!」
視界の端で父が笑ってた。暴力的な笑みが堪らなかった。そのことに嬉しくなって、楽しくなって。
どうしてこの人は息子を抱くんだろうとか、どうしてお母さんはこの人を毛嫌いしてたんだろうとか、どうしてお兄ちゃんのことは気にかけてなかったんだろうとか、いっぱいいっぱい気になったことはあったはずなのに全部どうでもよくなる。ただ求められてることに安心して、苦しさが全部気持ちくなって。
息つぐ暇もなく喘いでいた自分の声がぷっつりと聞こえなくなって。
目の前がきらきら輝き、真っ白になって何も見えなくなった。
嗚呼、魔法だ。
藍は顔をほころばせる。
星が降る。真夜中が来る。鐘の音は? 魅惑的な笑い声は?
魔法使いがやってくる。
ひらりとカーテンが風になびいた。真夜中の静寂。どこからともなく聞こえてくる静寂を裂く鐘の音。浅く呼吸をする未発達な子どもの息が重なった。
投げ出された細い脚はぴくりとも動かない。ベランダに頭を向け仰向けに寝転がり、めくれ上がるカーテンの隙間から夜の空をぼぉっと見上げていた。
事後の始末もせずにいる力の抜けた身体は、精液と先走りでてらてらと月明かりを反射している。汗で肌がしっとりと光った。
一際大きな流れ星が夜空に軌跡を作る。いつの間にか遮られた月明かりは藍の身体に大きな影を浮かび上がらせた。
肩で息をしていた藍は、酔ったようにへらりと笑う。
「あは……やっぱり会えたぁ」
かつん、と小さな音を立ててカラスのように柵にとまったのは、銀色の髪を月明かりに光らせるひどく中性的な男。にこり、と上品に笑うと頬杖をついて首を傾げた。
「こんばんは、藍。元気かい?」
「うん、元気だよ」
仰向けに寝転んだままの藍は魔法使いを見上げてクスクス笑った。魔法使いがそんな藍に釣られたように肩を震わせる。手すりから身体を浮かせて降りてくると、魔法使いは宙に浮いたまま藍の顔を覗き込んだ。ふわり、と石鹸のような清潔で甘い香りが漂う。
「おにーさん、俺、気づいたの」
「それはすごいじゃないか。何に気が付いたんだい?」
えへへ、と藍は笑った。相変わらずぴくりとも身体は動かない。魔法使いを見上げて幸せそうに笑う藍の垂れた目尻を、魔法使いが指先で拭った。
「ちゅーしゃ」
「ちゅーしゃ?」
魔法使いの淡く赤味がかった柔らかそうな唇が誘惑するように妖しく動く。首を傾げる魔法使いにこくりと頷くと、藍は片腕とよぼよぼと上げた。父にいつも注射される腕は赤黒く変色し、ミミズ腫れのような跡が残っている。
藍の腕を取った魔法使いは当たり前のようにその跡へ唇を這わせた。まるで最初からそうされるために藍が腕を上げたのかと錯覚するほど流れるような仕草だった。
微かな風が腕を撫でるような刺激に、藍が身体を震わせて笑う。そんな藍に魔法使いがクスッと悪戯気に微笑んだ。
「これだよ、お兄さん。お父さんに注射されるとね、お兄さんに会えるんだ」
「そうなのかい?」
「うん! だからこれからはもっといっぱい会えるね! お父さんにナイショでいっぱいちゅーしゃ、するんだぁ」
「ふふ、嬉しいね」
「うん、」
力の抜けた表情でへらりと笑う藍を飲み込むように魔法使いが顔を近づける。藍の視界はきらきらと輝く銀色と、魔法使いの白く細く女性のような可憐さと儚さを持つ首筋で遮られた。
ふ、と唇にひんやりとした感覚が伝う。ぱちぱちと空気中で何かが弾けるのが見えた。星の欠片だった。
魔法使いの柔らかな唇が押し付けられる。父のように激しく求められるような熱はない。比較的低い温度を持った唇がただ、そっと藍の唇に触れている。乱れた息も、急かすように早い鼓動も、全てを暴こうと身体をまさぐる手もない。
半開きだった唇に割って入ってきた舌は、藍の舌を絡めとろうとする気も見せなければ咥内を蹂躙するような気配もなく、ただ漏れ出た唾液をじゅ、と吸った。藍の目の前にある白い喉仏が、小さく上下する。
「えへへ、くすぐったいよ、お兄さん」
「そうかも。僕もくすぐったい」
魔法使いの前髪が藍の頬にかかる。どこで嗅いだのかも思い出せない懐かしい匂いがした。その安心する魔法使いの匂いを肺一杯に吸い込むめば、何かが満たされたような気分になった。
「藍、お兄ちゃんとは話せたかい?」
魔法使いの唇が下へ移動していく。鎖骨に触れ、胸に触れ、やがて濡れた腹へとたどり着く。精液にまみれた藍の身体を魔法使いが舌を使って舐め取っていった。時折身を捩らせながら、藍は兄のことに思考を巡らす。
「ン……最近あんまり帰ってこないなぁ」
「そっか」
「でも、一番上のお兄ちゃんは帰ってくる度にケーキを買ってきてくれる。俺が食べてるとおいしい?って何回も聞く。俺のこと揶揄って遊んでるんだ」
「君のことが愛しいんだね。大丈夫だよ、藍。それは愛されてる証拠さ」
「そうかな。二番目のお兄ちゃんは俺のことを避けてる」
魔法使いが藍の腹から顔を離した。ゆったりと、それでいて機敏に藍を見上げる。身体に力が入らず動けなかった藍は視線だけで魔法使いと目を合わせた。月光を浴び透き通る虹彩は、まさしく夜空のようだった。藍色の虹彩の中で星の軌跡が光っている。
「避けられるの?」
眉をひそめて、囁くように魔法使いが吐き出した。
「うん、目を合わせてくれない。同じ部屋にいたがらない。俺が近づくと逃げるんだ」
「……」
「話しかけようとすると睨んでくる。だから好きじゃないよ」
「藍はお兄ちゃんと一緒にご飯を食べたことはある?」
唐突に話の方向を変えた魔法使いに少しの違和感も感じずに藍は考えた。目線を斜め上に彷徨わせる。満月が眩しく藍を照らしていた。満月の光に霞んだせいで、星はいつもより少なかった。
「うーん、ないよ。上のお兄ちゃんとも、二番目のお兄ちゃんとも、お父さんともないや」
「そうなの?」
「うん。あ、でもお母さんとは一緒に食べたことがある。お母さんのところにいたときはあっちのお兄ちゃんとも毎日一緒にご飯食べてたよ。おいしかった」
3人で食卓を囲んでいたのもそう昔のことじゃないと思うのに、遥か昔のことにように感じる。そういえば好きだったなあ。お母さんの作ったビーフシチュー……
遠くを見つめてぼんやりと思い出していれば、魔法使いが慈しむような目でほほ笑んだ。
「そうそう、お母さんとは買い物とかも一緒に行った! お兄ちゃんと誕生日にケーキを買いに行ったこともあったなあ」
「それはとても素敵だね」
「うん」
「とても素敵な家族だ」
「家族……」
「藍はにばんめのお兄ちゃんを好きじゃないかもしれない。でも、みんなで食卓を囲めたらきっと素敵だよ。ほら、想像してごらん? みんなが笑って楽しくご飯を食べているところ」
魔法使いがどこからともなく取り出した銀の杖を空中で一振りした。真っ白くふわふわした花びらが散って、そこには幻影が映された。
父と、兄二人と食卓を囲む。手作りの料理を前に、笑いあってご飯を食べる。いつもは熱情と暴力の混ざった目で藍を見る父が、昔のように穏やかな目を向ける。藍を揶揄って遊ぶ兄が魔法使いのように優し気に笑い、無視をする二番目の兄が藍の頭を撫でた。
「これは……すごく、いいなあ」
脱力したように呟いた藍の声を拾った魔法使いがころころと、相変わらず鈴の鳴るような綺麗な声で笑った。
「とっても素敵な光景だね。そうなれば僕は嬉しい」
「お兄さんが嬉しいの?」
「もちろん。だって、それは君の望む世界だろう?」
「……そうかも」
風が手を包み込むようなささやかさで、魔法使いが藍の手に指を絡ませた。
「それなら僕は願おう」
君たち家族が、一緒の食卓を囲めますように。
藍の両手を握り、そこに魔法使いは自らの手を重ね合わせた。
二人の願いが一つになって、応えるように星が流れるのを藍は確かに見た。
「大丈夫、君はとっても愛されてるさ。お兄ちゃん二人にも、お父さんにも、母さんにもね。もちろん、僕にもさ」
ばちん、と魔法使いがウインクをする。あまりにもその仕草が様になっていて、思わず藍は笑ってしまった。揺れる視界の中で藍の目に映る世界は、美しい魔法使いのように楚々としている。白い天井までもが、石英を埋め込んだかのように柔らかく輝き、それはまるで魔法使いの銀色の絹糸のようだった。
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