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 衣笠の高い鼻筋が、俺の低い鼻とぶつかる。俺が吐いたばっかなんて気にもしないで、衣笠の舌が咥内で好き勝手に暴れまわった。離れては舌同士が絡みあい、唾液が落とされてそのまま喉奥に飲み込まれていく。必死に衣笠の舌を避けていても、どんどん俺の中に侵食してきて、溢れるくらいの唾液が押し込まれた。

 衣笠の熱が伝染したのか、酸欠の限界状態が後押ししたのか、次第に息は上がり、もぞもぞと腰が動き始める。そもそもキスなんて初めてで。舌と舌が絡み合う、この柔らかく、粘着質な感覚だって全部初めてだった。

 しかも腰に押し当てられる衣笠のちんこはもうずっと前から張り詰めていて、その非現実さが俺の興奮に拍車をかけていた。馬鹿みたいな話だ。

 気づいたらさっきみたいにベッドに押し倒されていて、俺はただひたすら衣笠の唾液を与えられるがままに飲み込んでいた。息の仕方も忘れたようにただひたすらに。

 ようやく唇が離され、やっと入ってきた十分な酸素を大きく吸い込む。ぼやける視界の中で、衣笠はすごく楽しそうな顔で笑ってた。ぼんやりとした頭じゃもう何もかもがよくわからない。下から見上げる衣笠の顔は上気していて、それがなんだか最中みたいで無意識のうちに下腹部がきゅんとした。

「ねえ、一緒に抜いていい?」
「は……え? ……なに」
「ねぇ……斎間くん……だめ?」
「え、い、いいよ……? え……?」

 え? なにが? ナニが?

 甘える子犬みたいなかわいい顔でそう聞かれれば、言葉の意味を理解するより前に答えていた。衣笠は俺の胸にべったりと頬をつけてふにゃりと笑う。

 たくし上げられたトレーナーの上を衣笠の大きな手が撫でていく。絶妙なもどかしい感覚にびくりと腰が跳ねた。

「はぁ……斎間くん、好き……」

 え? なに?

 聞き返そうとしたけど、スウェットの中に入ってきた衣笠の手にぎゅ、とちんこを握られてそれどころじゃなくなった。自分でも恥ずかしいくらい勃ちあがっていて、先走りに濡れていた。ぐちゃ、と衣笠が亀頭を手の平で包んで擦る。

「ぁっ……!」
「かわいい……食べたい……舐めたい……んん〜でも一緒にイきたい……挿れたい……」

 荒く肩で息をしていた衣笠がおもむろに自分のスウェットを押し下げた。

 勢いよく飛び出るその赤黒いモノのでかさにぎょっとして腰が引けた。はあ、と荒い息遣いが上から降ってくる。上気した頬に、少し下がった眉。余裕がなさそうなそんな顔からつい目が離せなくなってしまった。

 世の中のヤリチンとイケメンは滅べばいいと思うけど、セックスの時に余裕のないイケメンとヤリチンなら許してやろうと思った。

 …………セックス?

 いや、違うだろ。俺たちは今から何をしようとしてる?
 セックスではないだろう!

「ぅあ……! あっ」
「は、」

 衣笠のちんこと俺のが合わさって、ごりゅ、と擦れた。ちょうど裏筋がこすれて、脚がびくりと震える。それに気づいた衣笠が、口を緩く持ち上げてふっと笑った。

「今のとこ……好き?」
「い、いや? 別に……? んっ、ぁ」

 衣笠が俺の手を握って、合わさった二人分の性器を握らせた。衣笠のがでかすぎて、当然握り切れない。熱くて、硬くて、二人分の先走りでぬちゃりと音がした。俺の手の上から衣笠も同じように握ると、ぐちゃぐちゃと音を立てて扱きはじめた。衣笠の手に操られるようにして俺の手も動く。一体俺たちは何をしているんだろう。

「あっ……ん、ふぅ」
「あっはは……かわい……」

 こいつには一体俺がどう見えてるんだろう。かわいいはないと思う。イマジナリーフレンドの幻覚でも見えてんのか? 見上げた衣笠は火照った顔に汗を浮かせて、きつめの目元は酔ったように緩んでる。ほら、かわいいってこういうのじゃん。

「ん……っ、お前」
「……っ、え?」

 衣笠の指が絶妙に骨ばっているせいか、やたらといいところを擦られる。それに衣笠が腰を揺らすから、衣笠のちんこがごりごりと俺のを擦って。俺と衣笠の先走りが混ざって、ぐちぐちといやらしい音が聞こえる。そこに衣笠の吐息が混じって、余計に熱さが増した。

「っ、お、思って…ない、だろ…! んっ……ぁ、ひぅ」
「っ、はぁ……っ、なぁに?」
「かっ、わいい……とか」
「えっへへ……思ってる思ってる。ちょー思ってる。だいすき好き好き……斎間くん大好き」

 へら〜と笑うと衣笠は手を激しく動かしたまま、俺の上に覆いかぶさってきた。だらしなく開いてしまっていた口に舌が入ってきて絡められる。またいっぱい衣笠の唾液が送りこまれ、俺はそれが気管に入って咽る前に必死に飲み込んで飲み込んで。もう俺の胃の中、衣笠の唾液でいっぱいなんじゃないかなと思ってた。

「はっ……ん、んぅ」

 いっぱいのキスに、頭が真っ白になるくらいの刺激。太ももと腰がびくびく震えていた。
 いよいよ頭も馬鹿になってきた。
 だって、これ、すごく気持ちいい。

「はっ……斎間くん……すっごいエロい顔してる」
「いあ……う、ふっ……ん、ぁ」

 衣笠の手が速さを増していく。それに追い立てられるように、昇り詰めていくのがわかった。腰が跳ねて、足は勝手に衣笠の体を締め付けていた。

 自分で抜くのとはまったく別次元の気持ちよさをどう逃したらいいのかわからなくて、必死に抵抗する。首を逸らせば、衣笠すかさずキスしてくる。

「ぅ、あ……っ、い、やば……」
「目、見てよ」
「はぁ? ……っ」

 熱っぽい吐息が耳元で吐き出される。快感につむっていた目を薄く開けば、目があった。
 至近距離で、ばっちりと。黒い瞳に吸い込まれそうになって。
 どくん、と脈打つのがわかった。

「――ッ!」
「っぁ」

 俺の腹に二人分の精液がびゅ、と飛び散った。衣笠の勢いが強くて、俺の胸まで飛んでくる。最近抜いていなかったからか、俺もいつもより長くて、全然気持ちよさが収まらないことに怖くなった。

「……は、は……はぁ」

 脱力した体で大きく息を吸っていれば、首筋に衣笠が顔をぐりぐりと押し付けてきた。俺のちくちくした髪質とは違って、衣笠の髪は柔らかい。一瞬首にちくりと痛みを感じたけど、吐精後の脱力感と余韻で気にならなかった。

 衣笠はのそりと起き上がると息も荒いまま、俺の腹の上の二人分の白濁をぐちゃぐちゃとかき回した。俺と衣笠の精液が混ざる卑猥な音が響く。衣笠の色白な手が、今は精液に濡れててらてらと光ってる。俺は衣笠の長く節ばった指の隙間から白い精液が落ちていく様をぼんやりと見ていた。

 俺の腹の上で混ざりあった精液をぬぐい取った衣笠が、その手を俺の前にかざす。頭上の光が遮られた。衣笠の手を伝って落ちてくる精液を、俺は口を開けて受け止めた。舌の上に落とされた白濁をそのまま、ちらりと衣笠を見やる。

「……」

 頬は相変わらず薄赤く染まっているのに、衣笠の目つきは据わっていた。飲め、と言われている気がして、そのままごくんと飲み込む。喉仏が上下した。

 苦い。でも、不味くはなかった。きっと苦いには俺ので、衣笠の精子はもっと華やかな甘味を含んでる。

 両手で衣笠の手を掴むと、手に残った精液を残らず舐め取った。爪の先から指の間まで、舌を絡めたキスをするように、激しく執念にぬぐい取る。ごくん、と嚥下すると唇を舐めて手を離した。

 満足か? と問うようにもう一度衣笠を睨めば、今度は衣笠の目の下に涙袋が浮くのが見えた。うっそりとした、密やかな笑顔だった。



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